分院開設の全体の流れ
医療法人が分院を開設する場合は、定款変更の素案提出から診療所オープン(保険診療開始)まで、6~8ヶ月かかります。
そのため、手続きには早めに着手することが重要です。
本稿では、分院開設の全体の流れについて実務的な観点から解説します。
全体の流れ
手続きの順序
医療法人の場合、まず定款変更認可申請を行い、定款変更認可後に登記をします。
その後に保健所と厚生局の手続きが必要です。
具体的には以下の順序で進めます。
- 定款変更認可申請(都道府県等)
– 素案提出(仮申請)
– 事前審査
– 本申請
– 認可(認可書交付)
※ 通常3ヶ月程度必要です - 登記申請(法務局)
– 定款変更認可後に申請
– 1~2週間で完了
– 謄本の取得
※ 司法書士に依頼することをお勧めします - 保健所手続き
– 診療所開設許可申請
– 実地検査
– 診療所開設許可
– 診療所開設届
※ 実地検査のタイミングは保健所により異なります - 厚生局手続き
– 保険医療機関指定申請
– 施設基準の届出
– その他必要な申請
※ 毎月10日頃が締切です
確認事項
分院開設が決定したら、まず以下の項目を確認・検討する必要があります。
- クリニックの名称
– 使用可否を保健所に確認
– 候補名を2~3個用意
– 法人名の冠記の要否確認 - 所在地の表記
– 賃貸借契約書の記載内容確認
– 住居表示の確認
– 住居表示未実施地域の場合の表記の確認
– 部屋番号等の正確な記載 - 管理者の選任
– 資格要件の確認
– 前職退職時期の調整
– 理事就任の確認 - 開設資金の検討
– 必要資金の試算
– 調達方法の検討
– 説明資料の準備
具体的なスケジュール例
3月に分院開設が決定し、10月から保険診療を開始する場合の例を詳しく解説します。
3月
– 分院開設の決定
– 確認事項の検討開始
– 必要書類の準備開始
4月
– 定款変更認可申請の準備
– 素案提出
– 内装工事の検討
– 人員採用計画の策定
5月~6月
– 定款変更認可申請の事前審査
– 内装工事の着工
– スタッフの採用活動
– 医療機器の発注準備
7月
– 定款変更認可取得
– 登記申請
– 内装工事の進行
– 備品等の発注
8月
– 登記完了
– 診療所開設許可申請
– 実地検査
– 内装工事の完了
– 医療機器の搬入
9月
– 診療所開設許可(許可書交付)
– 診療所開設届
– 保険医療機関指定申請
– 開設準備
– スタッフ研修
10月
– 保険診療開始(保険医療機関指定通知書交付)
各段階の具体的内容
定款変更認可申請
- 事前準備
– クリニック名称の確認
– 所在地の表記確認
– 管理者の選任
– 必要書類の準備 - 提出書類
– 申請書
– 新旧条文対照表
– 定款変更案
– 社員総会議事録
– 事業計画・予算書
– その他添付書類 - 注意点
– 早めの準備着手
– 事前審査への対応
– 原本書類の準備
– 押印の準備
登記申請
- 申請タイミング
– 定款変更認可後速やかに
– 通常1~2週間で完了
– 保健所手続きとの調整
– 謄本の準備 - 必要書類
– 登記申請書
– 定款変更認可書
– 添付書類一式
– 登録免許税 - 実務上の注意
– 司法書士への依頼
– 認可書原本の取扱い
– 謄本の部数確認
– 原本の保管
保健所手続き
- 診療所開設許可申請
– 申請書の作成
– 図面の準備
– 添付書類の準備
– 手数料の準備 - 実地検査
– 内装工事との調整
– 必要書類の準備
– 管理者の立会い
– 表示物の準備 - 診療所開設届
– 管理者の書類
– 従事者の書類
– 診療日時の届出
– 原本の提示
厚生局手続き
- 保険医療機関指定申請
– 申請書の作成
– 保健所書類の写し
– 保険医登録票
– 締切の確認 - 施設基準の届出
– 基本診療料
– 特掲診療料
– 要件の確認
– 必要書類の準備
並行して進める準備
人員体制の整備
- 必要な職種
– 医師(常勤・非常勤)
– 看護師
– 医療事務職員
– その他必要な職種 - 雇用関係
– 雇用契約書
– 就業規則
– 給与体系
– 労務管理 - 社会保険関係
– 健康保険・厚生年金保険
– 雇用保険
– 労災保険
– 手続き書類
設備・備品の準備
- 医療機器
– 発注時期の調整
– 納品スケジュール
– 設置工事
– メンテナンス契約 - 什器備品
– 待合室の設備
– 診察室の設備
– 事務室の設備
– 消耗品の準備 - システム関係
– 電子カルテ
– レセプトコンピュータ
– オンライン資格確認
– ネットワーク整備
その他の準備
- 契約関係
– 賃貸借契約
– リース契約
– 保守契約
– 業務委託契約 - 届出関係
– 廃棄物処理
– 防火管理
– 医療廃棄物
– 各種保険 - 広報関係
– 看板
– パンフレット
– ホームページ
– 開院案内
実務上の注意点
スケジュール管理
- 重要な期限
– 定款変更認可:3ヶ月程度
– 登記申請:2週間以内
– 保険医療機関指定申請:毎月10日締切
– その他の期限 - 余裕を持った準備
– 早めの着手
– 予備日の設定
– 関係機関との事前相談
– トラブル対応の時間確保 - 開設までの段取り
– 工事スケジュール
– 人員採用時期
– 研修期間
– 準備期間
書類作成の注意点
- 共通事項
– 正確な記載
– 押印の確認
– 日付の整合性
– 記載漏れの防止 - 添付書類
– 原本と写しの区別
– 有効期限の確認
– 部数の確認
– 原本証明の要否 - 保管
– 控えの保管
– 原本の保管
– データでの保存
– バックアップの作成
まとめ
分院開設の手続きは、以下の点に特に注意が必要です。
- 計画的な準備
– 6~8ヶ月の準備期間確保
– 段階的な手続きの実施
– 関係機関との事前相談
– 十分な準備期間の確保 - 書類の完備
– 必要書類の事前確認
– 記載内容の正確性
– 提出期限の遵守
– 控えの保管 - 並行作業の管理
– 工事との調整
– 人員採用との調整
– 設備準備との調整
– スケジュール管理
なお、都道府県により要件が異なる場合がありますので、事前に必ず確認しましょう。
特に、提出書類や様式については、管轄する機関に確認するようにしましょう。不明な点がある場合は、早めに相談することで、スムーズな開設が可能となります。
また、期限に余裕を持って準備を進めることで、万が一の場合にも対応が可能となります。
特に、内装工事や人員採用については、予定どおりに進まないことも多いため、十分な準備期間を設けることが重要です。
事務所情報
大岡山行政書士事務所
〒145-0062 東京都大田区北千束3-20-8 スターバレーⅡ 402