診療所移転における確認事項

医療法人が診療所を移転する場合、様々な確認事項があります。
移転後にスムーズに診療を再開するためには、これらの事項を事前に把握し、計画的に準備を進めることが重要です。
本記事では、診療所移転にあたって特に注意すべき確認事項について詳しく解説します。
移転先の距離について
移転先の距離は最も重要な確認事項の一つです。
保険医療機関が移転する場合は、移転先を探す段階で【半径2km以内(直線距離)】に絞って探すことが必須です。
これを超えてしまうと重大な影響があります。
2kmを超える場合の影響
- 移転先で最初の1ヶ月間は保険診療ができなくなります
- 施設基準の実績の引き継ぎができず、ゼロからのスタートになります
- 初診料の算定や各種加算などの施設基準を新たに取得するための実績作りから始める必要があります
2km以内であることを示すために、グーグルマップなどを使って2点間の直線距離を測定し、厚生局への手続きの際にその証明として地図のスクリーンショットなどを添付するとよいでしょう。
クリニックの名称と所在地の表記
クリニックの名称
移転前と変更がない場合でも、必ず事前に採用したい名称を保健所に使用可否を確認しましょう。
相談の際は、相談日時や担当者名を記録しておくことが重要です。移転前のクリニック名に地名が入っている場合は注意が必要です。
例えば、「〇〇駅前クリニック」という名称で移転後に駅から離れた場所になる場合、「駅前」という文言が使えなくなることがあります。
以前は認められていた名称でも認められなくなる場合もあります。
保健所の基準は時期によって変わることもありますので、必ず事前確認を行ってください。
クリニックの所在地の表記
賃貸借契約書に記載されている「建物の所在地」をもとに表記します。
ただし、定款記載用としては、ハイフンは使わずに「東京都○○区△△△一丁目2番3号」のように記載する必要があります。
また、「○丁目」の数字表記は、都道府県によっては漢数字を使うといった決まりがある場合もありますので、移転前の所在地の記載に合わせるとよいでしょう。
診療所の所在地が住居表示実施地域かどうかによって、表記方法が異なります。
- 住居表示実施地域の場合
– 表記方法は通常「○丁目○番○号」
– 自治体によって異なる場合もあり - 住居表示未実施地域の場合
– 地番を使って「○丁目○番地○」のように記載
– こちらも自治体によって異なる場合あり
診療所の所在地が住居表示実施地域かどうかは、「○○区、住居表示」のように検索して役所のホームページで調べることが可能です。
新築の場合には、住居表示実施地域でも建物が完成していないため住居表示が決まっていない場合があります。
テナントの場合は早めに住居表示の手続きの手配を依頼し、「住居番号付定通知書」等に記載された住居表示を使うことになります。
移転資金の検討
移転資金については、早めに調達方法を検討し必要書類の手配をしておく必要があります。
移転にはかなりの資金が必要となります。
主な必要資金
- 内装工事費用
- 医療機器の購入費
- 保証金・敷金
- 運転資金(約2ヶ月分)
移転にあたっては、数千万円の資金が必要となるケースがほとんどです。
例えば、移転資金として3,000万円必要な場合、内部留保で3,000万円あれば自己資金で賄えますが、不足する場合は借入が必要になります。
内部留保で賄う場合
- 医療法人の財産目録や勘定科目内訳書など、内部留保が確認できる資料の提出が必要
- 都道府県等によって必要書類が異なる
借入が必要な場合
- 議事録に「○○銀行から、△△円借入をする」という決議が必要
- 金融機関との金銭消費貸借契約書(間に合わない場合は融資証明)が必要な自治体もある
- 借入先が理事長個人の場合は、理事長と医療法人との金銭消費貸借契約書、理事長個人の銀行口座の残高証明等が必要になる場合もある
資金計画は定款変更認可申請の際の社員総会議事録にも記載する必要があります。
収入と支出のバランスが取れていることを確認してください。
必要手続きの提出状況
医療法人の必須手続きには、毎年の決算届、2年に1回の役員変更届、登記(毎年の資産総額変更登記、2年毎の理事長重任登記)などがあります。
定款変更認可とは直接関係ありませんが、未了の場合は早めに済ませておく必要があります。
これらの必要手続きが未了の場合、認可がおりない都道府県等も多くあります。
例えば、直近の決算届が未提出の場合、定款変更認可申請の審査が保留されることがあります。
また、役員の任期満了に伴う重任登記が未了の場合も同様です。
定款変更認可申請の前に、これまでの手続状況を確認し、必要に応じて速やかに対応することが重要です。
建物関連の確認事項
建物賃貸借契約書の確認
移転先診療所の建物賃貸借契約書のすべてのページの写しが必要になります。
以下のケースでは特に注意が必要です。
物所有者と賃貸人が異なる場合
通常、建物賃貸借契約書の賃貸人(貸主)が建物所有者ですが、建物登記を確認すると賃貸人が建物所有者ではない場合があります。
その場合は、以下の書類が追加で必要になります。
- 建物所有者と賃貸人の関係がわかる契約書(原契約)
- 「建物所有者が転貸を承諾する」という転貸承諾書
これらの書類は入手までに数週間かかることもありますので、賃貸人が建物所有者ではないと判明した時点で、早めに手配しましょう。
大規模な建物の場合は、原契約がマスターリース契約書の場合もあり、その場合は賃貸承諾書が不要の場合もあります。
また、建物所有者が個人で、その建物所有者が経営する不動産管理会社が賃貸人というケースも多くあります。
この場合は、管理業務委託契約書や転貸承諾書などでも認められる場合があります。
移転先が決まり次第、建物の登記を調べることが重要です。
建物賃貸借契約の本契約が未締結の場合
定款変更認可申請の素案提出時に本契約が未締結の場合、素案提出時はドラフト版でも構いませんが、本申請時までに本契約の写しを提出する必要があります。
ただし、ドラフト版でも最低限、借主と貸主、所在地、賃料等が記載されている必要があります。
新築の場合
新築の場合、「予約契約書」のような契約を締結することがありますが、素案提出時はそれでも問題ありません。
通常、本申請時までに建物賃貸借契約を締結し、その写しを提出することになります。
診療所の図面
各部屋の面積が記載されている図面が必要になります。
工事着工前に、業者に保健所に確認してもらい、構造設備に問題ないか確認することが重要です。
医療機関の実績の多い業者に依頼することをお勧めします。
医療機関特有の規制などがありますので、経験のない業者では手続きが難航する場合があります。
診療所の構造設備については、以下の点に注意が必要です。
- 診察室の面積は9.9㎡以上必要
- 待合室の面積は3.3㎡以上必要
- 歯科診療所の場合
– 歯科治療室はユニット1セットあたり6.3㎡以上
– 2セット以上の場合は1セットあたり5.4㎡以上 - エックス線装置を設置する場合は専用の防護設備が必要
これらの要件を満たす図面を作成し、保健所に事前相談することで、実地検査での問題を防ぐことができます。
土地・建物の登記関連
土地の地番や建物の家屋番号を調べ、登記情報を取得します。
不明の場合は建物所有者や不動産屋に確認してください。
- 登記情報と謄本
– 素案提出時: 登記情報(オンラインの情報)でも可
– 本申請時: 謄本(正式な原本)が必要 - 取得方法
– 登記情報は登記情報提供サービスで確認可能
– 謄本は登記・供託オンライン申請システムでオンライン取得か、法務局で取得
管理者関連の確認事項
以下の書類が一連の手続きで必要になりますので、まとめて依頼しておきましょう。
印鑑証明書の原本
都道府県等によっては不要の場合もあります。
一方、2通(定款変更用と役員変更届用)必要な場合もありますので、事前に確認してください。
発行後3か月以内のものが求められるのが一般的です。
履歴書
管理者の履歴書を準備します。
学歴は大学入学以降、職歴は漏れなく記載し、移転後の就任予定も記載してください。
様式は各都道府県等によって異なる場合がありますので、所定の様式がある場合はそれを使用してください。
医師免許証や歯科医師免許証の写し
保健所手続きの際には原本提示も通常必要です。
B4サイズで横向きの免許証をA4サイズにコピーして準備します。
臨床研修修了登録証の写し
医師は平成16年4月以降登録の場合、歯科医師は平成18年4月以降登録の場合のみ必要です。
厚生労働省が発行した証明書であり、大学病院の研修修了書とは異なります。
準備に時間がかかる場合もありますので、早めに手配してください。
保険医登録票の写し
厚生局手続きの際に必要です。
医科の場合は「○医第○○○○○号」、歯科の場合は「○歯第○○○○○号」という登録番号があります。
紛失した場合は各厚生局に再発行を依頼できます。
まとめ
以上の確認事項を事前に把握し、計画的に準備を進めることで、診療所移転をスムーズに行うことができます。
移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、余裕をもったスケジュールで移転計画を進めることをお勧めします。
