診療所移転の定款変更の管理者関連書類について

医療法人が診療所を移転する際には、定款変更認可申請の添付書類として「管理者関連書類」の提出が必要です。
診療所の管理者は医療の質と安全を担保する重要な役割を担っているため、管理者に関する書類は都道府県等による審査の重要な判断材料となります。
本記事では、診療所移転に伴う定款変更認可申請時に必要な管理者関連書類について詳しく解説します。
管理者関連書類の概要
診療所移転の定款変更認可申請では、主に以下の管理者関連書類が必要となります。
- 管理者就任承諾書
- 履歴書
- 医師免許証(または歯科医師免許証)の写し
- 臨床研修修了登録証の写し(該当者のみ)
- 保険医登録票の写し
- 印鑑証明書(場合により)
これらの書類は、移転後の診療所の管理者が適格であることを証明するためのものです。
移転前と同じ管理者が続投する場合でも、改めて提出が必要になります。
管理者就任承諾書の作成方法
管理者就任承諾書とは
管理者就任承諾書は、医師または歯科医師が診療所の管理者に就任することを承諾する旨を示す書類です。
移転後の診療所の管理者になることを本人が承諾していることを証明します。
管理者就任承諾書の基本構成
管理者就任承諾書は、都道府県等によって様式が異なる場合がありますが、一般的に以下の項目を含みます。
- 日付
- 宛先(医療法人の理事長)
- 承諾者(管理者)の氏名と押印
- 承諾内容
- 添付書類(医師免許証の写しなど)
管理者就任承諾書の記載例
以下は、管理者就任承諾書の記載例です。
令和〇年〇月〇日
医療法人社団〇〇会
理事長 〇〇 〇〇 殿
氏名 〇〇 〇〇 実印
管理者就任承諾書
令和〇年〇月〇日開催の医療法人社団〇〇会の社員総会において、医療法人社団〇〇会が開設しようとする医療法人社団〇〇会 △△クリニックの管理者に選任され、その就任を承諾します。
(注)実印で押印してください。
(添付書類)
医師(歯科医師)免許証の写し
管理者就任承諾書作成の注意点
- 日付:社員総会の開催日以降の日付を記載します。
- 宛先:医療法人の理事長を宛先とします。理事長の氏名は正確に記載します。
- 押印:通常、実印での押印が求められます。印鑑証明書の提出も必要な場合があります。
- 記載内容:社員総会の開催日と、移転後の診療所の正式名称を正確に記載します。所在地の記載は不要な場合が多いですが、都道府県等の指示に従ってください。
- 添付書類:医師免許証(または歯科医師免許証)の写しを添付する旨を記載します。実際に添付する書類は別途用意します。
履歴書の作成方法
履歴書とは
履歴書は、管理者の経歴を示す書類で、学歴、職歴、資格などを記載します。
これにより、管理者としての適格性を判断する材料となります。
履歴書の基本構成
履歴書は、都道府県等によって様式が異なる場合がありますが、一般的に以下の項目を含みます。
- 氏名、現住所、生年月日
- 学歴(高校または大学以降)
- 医師国家試験合格と医籍登録
- 職歴(臨床研修、勤務先、開業など)
- 所属医師会
- 賞罰
- 署名と日付
履歴書の記載例
以下は、履歴書の記載例です。
履 歴 書 | |
---|---|
住 所 | 東京都新宿区西新宿二丁目8番1号 |
生年月日 | 昭和53年10月25日 |
学 歴 | 平成6年4月~平成9年3月 東京都立○○高校 平成9年4月~平成15年3月 ○○大学医学部 平成15年5月 第500回医師国家試験に合格 (医籍 123456 号 平成15年5月10日登録) |
職 歴 | 平成15年4月~平成21年7月 ○○大学病院内科医局勤務 平成21年8月~ 東京都千代田区丸の内3-5-1 東西ビル202号で西北クリニック開設 平成22年4月~ 千代田区医師会加入 平成23年4月~ 株式会社○○取締役 現在に至る。 |
賞 罰 な し ※医療法第46条の5第5項が準用する第46条の4第2項の役員欠格事由には該当しておりません。 |
|
以上のとおり相違ありません。 令和〇年〇月〇日 氏 名 〇〇 〇〇 |
履歴書作成の注意点
- 現住所:住民票上の住所を記載します。実際の居住地と異なる場合は、都道府県等の指示に従ってください。
- 学歴:高校または大学以降の学歴を記載します。医学部卒業と医師国家試験合格は必ず記載します。
- 医籍登録:医籍番号と登録年月日を正確に記載します。医師免許証に記載されている情報と一致させます。
- 職歴:臨床研修を含む職歴を漏れなく記載します。現在の診療所開設についても記載し、移転後の就任予定は通常記載しません(就任承諾書に記載済みのため)。
- 賞罰:通常「なし」と記載します。賞罰がある場合は正確に記載します。役員欠格事由に該当しない旨の記載が必要な都道府県等もあります。
- 日付:管理者就任承諾書と同じか近い日付にします。
- 押印:通常、実印での押印が求められます。
医師免許証(または歯科医師免許証)の写しの準備
医師免許証の写しとは
医師免許証(または歯科医師免許証)の写しは、管理者が医師または歯科医師の資格を有していることを証明する書類です。
医師免許証の写しの準備方法
- 医師免許証(または歯科医師免許証)をA4サイズの用紙にコピーします。
- 通常、原本はB4サイズで横向きですので、A4サイズに縮小コピーすることになります。
- コピーは鮮明で、記載内容が読み取れるものにします。
医師免許証の写しの準備時の注意点
- 鮮明なコピー:文字や番号が読み取れる鮮明なコピーを用意します。
- 両面コピー:両面に記載がある場合は、両面コピーを取ります。
- 原本の提示:書類提出時や実地検査時に原本の提示を求められる場合もありますので、原本も準備しておきます。
- 医籍番号の確認:医籍番号は履歴書に記載する情報と一致させます。
臨床研修修了登録証の写しの準備(該当者のみ)
臨床研修修了登録証とは
臨床研修修了登録証は、医師法または歯科医師法に定められた臨床研修を修了したことを証明する書類です。
以下の医師・歯科医師が対象となります。
- 医師:平成16年4月以降に医師免許を取得した者
- 歯科医師:平成18年4月以降に歯科医師免許を取得した者
臨床研修修了登録証の写しの準備方法
- 臨床研修修了登録証の原本をA4サイズの用紙にコピーします。
- コピーは鮮明で、記載内容が読み取れるものにします。
臨床研修修了登録証の写しの準備時の注意点
- 厚生労働省発行のもの:臨床研修修了登録証は、病院が発行する修了証ではなく、厚生労働省が発行した公式の登録証です。A4サイズの縦長の書類です。
- 紛失した場合:紛失した場合は再発行が可能です。厚生労働省医政局医事課または地方厚生局に問い合わせてください。
- 原本の提示:書類提出時や実地検査時に原本の提示を求められることがありますので、原本も準備しておきます。
- 必要性の確認:平成16年3月以前に医師免許を取得した医師や、平成18年3月以前に歯科医師免許を取得した歯科医師は、臨床研修修了登録証は不要です。
保険医登録票の写しの準備
保険医登録票とは
保険医登録票は、健康保険法に基づく保険医として登録されていることを証明する書類です。
保険診療を行うためには、保険医の登録が必要です。
保険医登録票の写しの準備方法
- 保険医登録票の原本をA4サイズの用紙にコピーします。
- コピーは鮮明で、記載内容が読み取れるものにします。
保険医登録票の写しの準備時の注意点
- 登録番号の確認:医科の場合は「○医第○○○○○号」、歯科の場合は「○歯第○○○○○号」という登録番号があります。この番号は後の厚生局手続きでも必要になります。
- 紛失した場合:紛失した場合は地方厚生局に再発行を依頼できます。手続きに時間がかかる場合があるので、早めに確認しましょう。
- 原本の提示:通常、コピーの提出のみで原本提示は不要ですが、都道府県等や厚生局の指示に従ってください。
印鑑証明書の準備(場合により)
印鑑証明書とは
印鑑証明書は、実印が本人のものであることを公的に証明する書類です。
管理者就任承諾書に実印を押印する場合、その真正性を証明するために提出が必要になることがあります。
印鑑証明書の取得方法
- 管理者の住民登録がある市区町村の窓口で取得します。
- マイナンバーカードがあれば、コンビニのマルチコピー機でも取得できます。
- 手数料は通常300円程度です。
印鑑証明書取得時の注意点
- 有効期限:印鑑証明書には明確な有効期限はありませんが、一般的には発行後3か月以内のものが求められます。
- 必要部数:通常1通で足りますが、都道府県等によっては2通(定款変更用と役員変更届用)必要な場合もあります。事前に確認してください。
- 管理者と理事長が同一人物の場合:管理者と理事長が同一人物の場合は、その旨を都道府県等に伝え、必要な印鑑証明書の部数を確認しましょう。
管理者関連書類提出時の注意点
書類の提出タイミング
管理者関連書類は、定款変更認可申請の際に一括して提出するのが一般的ですが、都道府県等によっては以下のように提出タイミングが異なる場合があります。
- 素案提出時(仮申請時):管理者関連書類の写しのみ提出
- 本申請時:押印や原本が必要な書類を提出
- 保健所手続き時:保健所での診療所開設許可申請や開設届の際に提出
事前に都道府県等に確認し、適切なタイミングで提出できるように準備しましょう。
原本の提示
管理者関連書類の多くは、保健所手続きの際、に原本の提示を求められることがあります。
特に以下の書類は原本を準備しておきましょう。
- 医師免許証(または歯科医師免許証)
- 臨床研修修了登録証(該当者のみ)
提出部数
提出部数は都道府県等によって異なりますが、通常2部(正本1部、副本1部)が必要です。副本はコピーでも構いませんが、正本は原本または原本証明が必要な場合があります。
複数の手続き(定款変更、保健所、厚生局など)で同じ書類が必要になるため、余裕をもって3~4部作成しておくと良いでしょう。
書類間の整合性
各書類間で記載内容に不一致がないように注意します。
- 氏名の表記が書類によって異なっていないか(例:「髙橋」と「高橋」)
- 生年月日が書類によって異なっていないか
- 医籍番号が履歴書と医師免許証で一致しているか
- 住所が印鑑証明書と履歴書で一致しているか(異なる場合は理由を説明できるようにする)
管理者の変更がある場合の対応
移転に伴い管理者が変更になる場合は、以下の点に特に注意が必要です。
社員総会での決議
管理者の変更は社員総会で決議する必要があります。
社員総会議事録に以下の内容を記載します。
- 旧管理者の退任理由
- 新管理者の選任理由と適格性
- 新管理者の略歴(学歴、職歴など)
新旧管理者の書類準備
新管理者については前述の全書類が必要です。
旧管理者については、都道府県等によっては退任届や辞任届が必要な場合があります。
役員変更手続き
管理者が理事を兼ねている場合は、役員変更の手続きも必要になることがあります。
都道府県等に確認し、必要な手続きを行いましょう。
管理者関連書類準備のためのチェックリスト
管理者関連書類を漏れなく準備するためのチェックリストを以下に示します。
管理者就任承諾書のチェックリスト
- 日付は社員総会開催日以降になっているか
- 宛先(理事長)の氏名は正確か
- 診療所の名称は定款変更案と一致しているか
- 実印で押印されているか
- 添付書類の記載があるか
履歴書のチェックリスト
- 住所、氏名、生年月日は正確か
- 学歴、医師国家試験合格、医籍登録の情報は正確か
- 職歴は漏れなく記載されているか
- 賞罰欄は適切に記載されているか
- 日付と署名があるか
医師免許証等のチェックリスト
- 医師免許証(または歯科医師免許証)のコピーは鮮明か
- 臨床研修修了登録証(該当者のみ)のコピーは鮮明か
- 保険医登録票のコピーは鮮明か
- 原本提示の準備ができているか
印鑑証明書のチェックリスト
- 発行後3か月以内のものか
- 必要部数を準備しているか
まとめ
診療所移転に伴う定款変更認可申請において、管理者関連書類は管理者の適格性を証明する重要な書類です。
これらの書類を適切に準備することで、定款変更認可申請の審査をスムーズに進めることができます。
特に重要なポイントは以下の通りです。
- 書類の正確性
– 管理者就任承諾書は実印で押印し、内容は正確に記載する
– 履歴書は学歴、職歴を漏れなく記載する
– 医師免許証等のコピーは鮮明なものを用意する - 原本の準備
– 医師免許証、臨床研修修了登録証、保険医登録票の原本は提示が必要な場合が多い
– 実印で押印する場合は印鑑証明書も準備する - 書類間の整合性
– 氏名、生年月日、医籍番号などが書類間で一致していることを確認する
– 社員総会議事録や定款変更案と整合性を取る
これらのポイントを押さえ、丁寧に書類を準備することで、定款変更認可申請をスムーズに進めることができます。
都道府県等によって要求される様式や内容が異なる場合がありますので、必ず事前に確認することをお勧めします。
移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、計画的に準備を進めましょう。
