診療所移転の定款変更の申請書と新旧対照表、新定款の案文の作成方法

医療法人が診療所を移転する際には、定款変更認可申請が必須となります。
この手続きにおいて特に重要な書類が、「申請書」「新旧条文対照表」「新定款の案文」です。
これらの書類は定款変更認可申請の根幹をなすもので、適切かつ正確に作成する必要があります。
本記事では、これら3つの書類の作成方法について、具体的に解説します。
申請書の作成方法
定款変更認可申請書は、定款変更の基本情報と変更内容を示す重要な書類です。
都道府県等によって様式が異なる場合がありますので、必ず管轄の都道府県等のホームページなどで確認してください。
申請書に記載する主な項目
- 申請者欄
– 医療法人の名称
– 代表者(理事長)の氏名
– 主たる事務所の所在地
– 連絡先(電話番号など) - 変更内容欄
– 変更する条文(第2条:主たる事務所の所在地、第4条:診療所の名称および開設場所)
– 変更理由 - 添付書類欄
– 添付書類の一覧
変更理由の記載方法
移転の場合の変更理由は、通常「①主たる事務所の移転、②診療所の廃止、および開設」と記載します。
都道府県等によっては、②を「診療所の移転」と記載することも認められています。
申請書記載例
以下は、申請書の記載例です(様式は都道府県等により異なります)。
定款変更認可申請書
令和○年○月○日
東京都知事 殿
申請者 東京都千代田区丸の内四丁目7番7号
丸の内ビル101号
医療法人社団○○会
理事長 ○○ ○○ 印
医療法人社団○○会の定款を次のとおり変更したいので、医療法第54条の9第3項の規定により認可を申請します。
1. 変更する条項
第2条 事務所の所在地
第4条 開設する診療所の名称および所在地
2. 変更理由
(1) 主たる事務所の移転
(2) 診療所の廃止、および開設
3. 添付書類
(1) 新旧条文対照表
(2) 新定款の案文
(3) 社員総会議事録
(4) 新診療所等の概要
(以下省略)
作成時の注意点
- 申請者の住所は、現在の主たる事務所の所在地(移転前の所在地)を記載します。
- 理事長印は実印を使用する場合が多いので、押印の際は注意が必要です。
- 添付書類は漏れなく記載してください。
- 申請書の日付は、本申請時の日付を記載します(素案提出時は空欄でも可)。
新旧条文対照表の作成方法
新旧条文対照表は、変更前の定款条文と変更後の定款条文を対比させて記載する書類です。
この表により、どの条文がどのように変更されるのかが一目でわかるようになります。
対象となる条文
診療所移転の場合、主に以下の2つの条文が変更対象となります。
- 定款第2条(主たる事務所の所在地)
– 医療法人の主たる事務所の所在地を記載する条文 - 定款第4条(診療所の名称と所在地)
– 医療法人が開設する診療所の名称と所在地を記載する条文
表の構成
新旧条文対照表は、通常以下のような表形式で作成します。
- 左側に「新条文」(変更後の条文)
- 右側に「旧条文」(変更前の条文)
- 変更箇所に下線を引く
新旧条文対照表の記載例
新旧条文対照表
新条文 | 旧条文 |
---|---|
第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号に置く。 | 第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内四丁目7番7号 丸の内ビル101号に置く。 |
第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。 医療法人社団東南会 西北クリニック 東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号 | 第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。 医療法人社団東南会 西北クリニック 東京都千代田区丸の内四丁目7番7号 丸の内ビル101号 |
所在地表記の注意点
所在地を記載する際は、以下の点に注意が必要です。
- 正確な表記
– 賃貸借契約書では「東京都○○区△△△1-2-3」のようにハイフンで表記されていることが多いですが、定款では「東京都○○区△△△一丁目2番3号」のように記載します。
– 「丁目」「番」「号」の表記が必要です。 - 数字の表記
– 「丁目」の数字は、都道府県等によっては算用数字ではなく漢数字を使用する場合があります。
– 移転前の表記に合わせるのが無難です。 - 住居表示と地番
– 住居表示実施地域では「〇丁目〇番〇号」
– 住居表示未実施地域では「〇丁目〇番地〇」のように表記が異なります。 - ビル名・部屋番号
– ビル名や部屋番号まで正確に記載します。
– 「○○ビル○階」「○○区画○○号」などの表記も正確に記載します。
作成時の注意点
- 現行定款と完全に一致する旧条文を記載することが重要です。
- 変更箇所には必ず下線を引きます。所在地だけが変更になる場合は所在地のみ、診療所の名称も変更になる場合は名称と所在地の両方に下線を引きます。
- 漢数字と算用数字の使い分けは自治体のルールに従います。
- 手入力は避け、コピー&ペーストで正確に記載することをお勧めします。
新定款の案文の作成方法
新定款の案文は、変更後の定款全文を記載した書類です。
現行定款をベースに、変更箇所を修正して作成します。
新定款の案文の基本構成
定款の基本構成は以下の通りです(一般的な例)
- 第1章:総則(名称、事務所、目的など)
- 第2章:資産及び会計
- 第3章:役員
- 第4章:会議
- 第5章:定款の変更
- 第6章:解散及び合併
- 第7章:雑則
- 附則
このうち、診療所移転に伴い変更するのは主に以下の条文です
- 第2条(事務所の所在地)
- 第4条(診療所の名称及び所在地)
新定款の案文の記載例
以下は、新定款の案文の一部抜粋例です
医療法人社団○○会定款(案)
第1章 総則
第1条 本社団は、医療法人社団○○会と称する。
第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号に置く。
第3条 本社団は、科学的でかつ適正な医療を普及することを目的とする。
第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。
医療法人社団○○会 △△クリニック
東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号
(以下省略)
タイトルの記載方法
新定款の案文のタイトルは、まだ認可が下りていない段階ですので、「医療法人社団○○会定款(案)」と記載します。
認可後は「(案)」を削除します。
条文の修正箇所
診療所移転の場合、主に以下の2つの条文を修正します。
- 第2条(主たる事務所の所在地)
– 移転後の主たる事務所の所在地を記載します。 - 第4条(診療所の名称と所在地)
– 移転後の診療所の名称および所在地を記載します。
– 名称が変更される場合は、新しい名称を記載します。
作成時の注意点
- 現行定款をワードファイルなどで入手し、それをベースに修正するのが効率的です。
- 新旧条文対照表との整合性を確認してください。
- 所在地の表記は新旧条文対照表と完全に一致させる必要があります。
- 定款全文を記載する必要がありますので、変更箇所以外の条文も漏れなく記載してください。
- 附則の部分は現行定款のまま記載します。
所在地表記の重要性と確認方法
診療所移転の定款変更において、所在地表記は非常に重要です。
正確な表記を確認するための方法を解説します。
住居表示の確認方法
- 役所のホームページで確認
– 「○○区 住居表示」で検索し、実施地域かどうかを確認します。 - 住居表示実施地域の場合
– 住居表示に基づく所在地を記載します(〇丁目〇番〇号)。
– 建物が新築の場合は「住居番号付定通知書」を入手します。 - 住居表示未実施地域の場合
– 地番に基づく所在地を記載します(〇丁目〇番地〇)。
– 土地の全部事項証明書に記載された地番を確認します。
建物所在地の確認方法
- 賃貸借契約書の確認
– 賃貸借契約書に記載された「建物の所在地」を確認します。
– ただし、契約書の表記をそのまま使うのではなく、定款に適した表記に修正する必要があります。 - 建物の登記簿謄本の確認
– 建物の全部事項証明書で、正確な所在地と家屋番号を確認します。 - 建物所有者への確認
– 不明点がある場合は、建物所有者や不動産会社に確認します。
部屋番号・区画番号の確認方法
- 賃貸借契約書の確認
– 部屋番号や区画番号が明記されているか確認します。
– 「○○区画○○号」などの表記をそのまま使用します。 - 現地の表示の確認
– 実際の部屋や区画に表示されている番号を確認します。 - 建物管理者への確認
– 不明点がある場合は、建物の管理者に確認します。
申請書類作成のための準備と手順
定款変更の申請書類を正確に作成するための準備と手順を解説します。
必要な資料の収集
- 現行定款
– 最新の定款のコピーとワードファイルを準備します。
– 見つからない場合は、過去の定款変更認可書を確認します。 - 賃貸借契約書
– 移転先診療所の賃貸借契約書を入手します。
– 所在地、ビル名、部屋番号を確認します。 - 登記事項証明書
– 医療法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を準備します。
– 移転先の建物の登記事項証明書も入手します。
所在地表記の確認と統一
- 移転前の所在地表記の確認
– 現行定款の所在地表記を確認します。
– 「丁目」「番」「号」の表記や、漢数字と算用数字の使い分けを確認します。 - 移転後の所在地表記の決定
– 賃貸借契約書や建物の登記事項証明書を参考に、正確な所在地を決定します。
– 移転前の表記スタイルに合わせます。 - 表記の統一
– 申請書、新旧条文対照表、新定款の案文で表記を統一します。
– 「東京都○○区△△△一丁目2番3号 ○○ビル4階」のように正確に記載します。
書類作成の手順
- 新旧条文対照表の作成
– 現行定款から該当条文をコピーして「旧条文」に貼り付けます。
– 移転後の所在地を「新条文」に記載し、変更箇所に下線を引きます。 - 新定款の案文の作成
– 現行定款のワードファイルを修正して作成します。
– 第2条と第4条を新しい所在地に書き換えます。 - 申請書の作成
– 都道府県等の様式に従って作成します。
– 変更内容と変更理由を明記します。 - 最終確認
– すべての書類で所在地表記が統一されているか確認します。
– 誤字脱字や数字の間違いがないか確認します。
まとめ
診療所移転に伴う定款変更認可申請において、申請書、新旧条文対照表、新定款の案文は最も重要な書類です。
これらの書類を正確に作成するためには、所在地表記の確認と統一が不可欠です。
特に重要なポイントは以下の通りです。
- 所在地表記の正確性
– 住居表示か地番かを確認し、自治体のルールに従った表記にする
– 「丁目」「番」「号」の表記を正確に行う
– ビル名・部屋番号まで正確に記載する - 書類間の整合性
– 申請書、新旧条文対照表、新定款の案文で表記を統一する
– 新旧条文対照表の変更箇所には必ず下線を引く - 現行定款との整合性
– 現行定款の表記スタイルに合わせる
– 変更箇所以外の条文は変更しない
これらのポイントを押さえ、丁寧に書類を作成することで、定款変更認可申請をスムーズに進めることができます。
都道府県等によって要求される書類や様式が異なる場合がありますので、必ず事前に確認することをお勧めします。
移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、計画的に書類の準備を進めましょう。
