診療所移転の定款変更の提出書類の概要

医療法人が診療所を移転する際には、定款変更認可申請が必要となります。
この手続きには様々な書類を提出する必要がありますが、どのような書類が必要なのか、またその書類はどのように作成すればよいのかを知ることが重要です。
本記事では、診療所移転に伴う定款変更認可申請の提出書類について詳しく解説します。
定款変更認可申請に必要な書類一覧
定款変更認可申請では、都道府県等によって提出書類が若干異なる場合がありますが、一般的に以下の書類が必要です。
本記事では、東京都の例に沿って説明します。
- 申請書
- 新旧条文対照表
- 新定款の案文
- 社員総会議事録
- 新診療所等の概要
- 周辺の概略図
- 平面図
- 賃貸借契約書(覚書)の写し
- 登記事項証明書(土地・建物)
- 管理者就任承諾書
- 医師(歯科医師)免許証の写し
- 履歴書
- 印鑑登録証明書
- 事業計画
- 借入をする場合は金銭消費貸借契約書の写し
- その他契約書の写し
- 変更予算・予算書
- 収入予算書・支出予算書(各施設毎)
- 入院・外来収入内訳書、職員給与費内訳書(各施設毎)
- 事業報告書等一式(直近の事業年度分)
- 勘定科目内訳書
- 登記事項証明書(医療法人)
- 医療法人の概要
それでは、主要な書類について詳しく解説していきます。
申請書
申請書には、医療法人の名称、代表者氏名、主たる事務所の所在地などの基本情報と、変更内容、変更理由を記載します。
移転の場合の変更理由は、「①主たる事務所の移転、②診療所の廃止、および開設」と記載します。
②は、「診療所の移転」と記載しても構わない都道府県等もあります。これは、都道府県などの指示に従ってください。
新旧条文対照表
新旧条文対照表は、変更前の定款条文と変更後の定款条文を対比させて記載する書類です。
移転の場合、主に以下の2つの条文が変更対象となります。
- 定款第2条(主たる事務所の所在地)
- 定款第4条(診療所の名称と所在地)
新旧条文対照表の作成方法は以下の通りです。
- 表の右側に旧条文(現行定款の第2条と第4条)をコピー&ペーストします。
- 表の左側に新条文を記載します。第2条は移転後の主たる事務所の所在地、第4条は移転後の診療所の名称と所在地を記載します。
- 変更箇所には下線を引きます。所在地だけが変更になる場合は所在地のみ、診療所の名称も変更になる場合は名称と所在地の両方に下線を引きます。
新旧条文対照表の記載例
新条文 | 旧条文 |
---|---|
第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号に置く。 | 第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内四丁目7番7号 丸の内ビル101号に置く。 |
第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。 医療法人社団東南会 西北クリニック 東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号 | 第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。 医療法人社団東南会 西北クリニック 東京都千代田区丸の内四丁目7番7号 丸の内ビル101号 |
所在地表記の際の注意点
- 賃貸借契約書では「東京都○○区△△△1-2-3」のようにハイフンで表記されていることが多いですが、定款では「東京都○○区△△△一丁目2番3号」のように記載する必要があります。
- 「〇丁目」の数字表記は、都道府県等によっては算用数字ではなく漢数字を使う場合もあるので、移転前の表記に合わせましょう。
- 住居表示実施地域では「〇丁目〇番〇号」、未実施地域では「〇丁目〇番地〇」と表記が異なります。自治体に確認してください。
新定款の案文
新定款の案文は、変更後の定款全文を記載した書類です。
現行定款をベースに、第2条と第4条を新しい内容に書き換えます。
まだ認可が下りていない段階ですので、タイトルは「医療法人社団○○会定款(案)」としてください。
新定款の案文例(抜粋)
医療法人社団○○会定款(案)
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第2条 本社団は、事務所を東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号に置く。
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第4条 本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。
医療法人社団東南会 西北クリニック
東京都千代田区丸の内三丁目5番1号 東西ビル202号
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社員総会議事録
定款で、「…次の事項を社員総会の議決を経なければならない。(1)定款の変更…」と定められていますので、移転が決まり次第、臨時社員総会を開催し、移転の決議を取る必要があります。
社員総会議事録の主な記載事項は以下の通りです
- 日時・場所
- 出席社員・出席役員
- 議事録作成者
- 議案と決議内容
移転の場合の主な議案
- 診療所移転の件
- 主たる事務所移転の件
- 定款の一部変更の件
- 新診療所の管理者選任の件
- 銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度の承認の件(借入が必要な場合)
- 事業計画及び予算の変更設定の件
診療所移転の件では、移転理由(「手狭になった」「老朽化した」など)を具体的に記載し、移転資金計画も明記します。
移転資金計画には、資金調達方法(内部留保、借入など)と使途(内装工事費、医療機器購入費、保証金、運転資金など)を記載します。
社員総会議事録には、出席した社員全員と役員の記名押印が必要です。押印は実印を使用する都道府県等が多いです。
新診療所等の概要
新診療所等の概要は、移転後の診療所の基本情報をまとめた書類です。
主な記載事項は以下の通りです。
- 診療所の名称・所在地
- 電話番号(未定の場合はその旨記載)
- 管轄の保健所名
- 診療科目
- 病床の有無
- 管理者の氏名・生年月日・医籍番号
- 職員数
- 建物の面積・構造
- 診療日・診療時間
- 非常勤医師の勤務状況
診療科目については、標榜できる科目を事前に保健所に確認しておくことが重要です。
また、診療所の名称についても、移転前と変更がない場合でも、事前に保健所に使用可否を確認しましょう。
事業計画
事業計画は、移転計画の概要と経営見通しを記載した書類です。
通常A4で1~3枚程度にまとめます。主な記載事項は以下の通りです。
- 移転の概要(移転元・移転先、移転時期)
- 移転の理由
- 必要資金とその調達方法
- 移転後の診療体制
- 収支見通し
記載例
事 業 計 画
令和5年度(令和5年4月1日~令和6年3月31日)
令和5年9月をもって、医療法人社団東南会 西北クリニック(東京都千代田区丸の内四丁目7番7号丸の内ビル101号)は廃止し、令和5年10月より新規診療所(東京都千代田区丸の内三丁目5番1号東西ビル202号)へ移転する。
移転にあたり必要な資金、計○○円(内装工事費 ○○円、医療機器購入費 ○○円、保証金○○円、運転資金等 ○○円)については、借入金をもって充てる。
新規診療所の初年度の医業収入の見込みは、○○千円であり、○○千円ほどの利益が見込まれる。
令和6年度(令和6年4月1日~令和7年3月31日)
初年度と同様の方針で、安定した経営を継続したく考える。
新規診療所の次年度の医業収入の見込みは、○○千円であり、○○千円ほどの利益が見込まれる。
なお、職員の新たな採用の予定はない。
移転の場合は、「医療機器・備品等については、移転前のものを引き続き使用する」としても構いません。
予算書
予算書は、移転に伴う収支計画を数値化した書類です。
各都道府県等のホームページに様式が掲載されていますので、それに従って作成します。
予算書はキャッシュフロー計算書に近いものですので、通常、現預金が動く取引のみを記載します。
減価償却費や引当金などの記載は不要な場合が多いです。
一方、借入金や借入金の元本返済、保証金や内装工事代、医療機器等購入代金は記載が必要です。
移転の予算書作成のポイント
- 移転前と移転後の変化が明確になるようにする
- 移転に伴って変わる項目(家賃、内装工事費、医療機器購入費など)は必ず記載する
- その他の項目(患者数、診療単価など)は移転前と同じ数字が望ましい
- 収入と支出のバランスを取る
予算書には、初年度(移転年度)と次年度の2年分の予算を記載するのが一般的です。
管理者就任承諾書
管理者就任承諾書は、移転後の診療所の管理者に就任することを承諾する書類です。
各都道府県等の様式に従って作成します。
記載例
令和 年 月 日
医療法人社団○○会
理事長 殿
氏名 実印
管理者就任承諾書
令和 年 月 日開催の医療法人社団○○の社員総会において、医療法人社団○○が開設しようとする医療法人社団○○ △△診療所の管理者に選任され、その就任を承諾します。
(注)実印で押印してください。
(添付書類)
医師(歯科医師)免許証の写し
通常、管理者の実印での押印が必要です。
また、添付書類として医師免許証のコピーも必要です。
医療法人の概要
医療法人の概要は、医療法人の基本情報をまとめた書類です。
主な記載事項は以下の通りです。
- 設立認可年月日、設立登記年月日
- 法人の種類(社団・財団、持分の有無など)
- 事務所の所在地(移転前・移転後)
- 目的
- 設立代表者
- 理事及び監事
- 開設している医療施設(廃止施設と新規施設)
移転の場合、「事務所の所在地」は移転前と移転後の両方を記載し、「開設している医療施設」の欄には、移転前の診療所を「(廃止)」として記載し、移転後の診療所を「(新規)」として記載します。
記載例(一部抜粋)
事務所の所在地
(移転前)〒
(移転後)〒
開設している医療施設
(廃 止)
医療機関名:医療法人社団○○会 △△クリニック
所在地:〒
開設年月日:令和 年 月 日
管理者名:
診療科目:
(新 規)
医療機関名:医療法人社団○○会 △△クリニック
所在地:〒
開設予定年月日:令和 年 月 日
管理者名:
診療科目:
その他の提出書類
上記以外にも、以下の書類が必要になります。
- 周辺の概略図・案内図
– Yahoo地図などで診療所の位置がわかるものをPDF化して提出します。 - 平面図
– 各部屋の面積(診察室の面積など)が記載された図面を提出します。
– 診察室は9.9㎡以上、待合室は3.3㎡以上必要です。 - 賃貸借契約書の写し
– 移転先診療所の建物の賃貸借契約書のすべてのページの写しを提出します。
– 建物所有者と賃貸人が異なる場合は、原契約や転貸承諾書も必要です。 - 登記事項証明書(土地・建物・医療法人)
– 素案提出時は登記情報(オンライン情報)でも可能ですが、本申請時には謄本(正式な原本)が必要です。 - 医師免許証の写し・履歴書
– 管理者の医師免許証の写しと履歴書を提出します。
– 臨床研修修了登録証の写しも必要な場合があります。 - 印鑑登録証明書
– 通常、管理者の印鑑証明書が1通必要です。発行後3か月以内のものが求められます。
提出書類作成時の注意点
- 所在地表記の統一性
– 定款、議事録、予算書など、すべての書類で所在地表記を統一してください。
– 住居表示か地番かを確認し、自治体のルールに従った表記にします。 - 押印・原本の確認
– 素案提出時は押印不要の場合が多いですが、本申請時には必要な書類に押印が必要です。
– 本申請時には各種証明書の原本が必要になるので、事前に準備しておきましょう。 - 整合性の確保
– 各書類間で数字や内容に矛盾がないように注意してください。
– 特に予算書と事業計画、社員総会議事録の移転資金計画は整合性が重要です。 - 提出部数
– 提出部数は都道府県等によって異なります。通常、正本1部、副本1部の計2部が必要です。
– 余裕をもって3~4部作成しておくと良いでしょう。
まとめ
診療所移転に伴う定款変更認可申請には、様々な書類の提出が必要です。
特に重要なのは以下の点です。
- 所在地表記:正確な表記で統一的に記載する
- 社員総会議事録:必要な議案をすべて含め、適切に記録する
- 予算書:移転資金の調達・使途を明確にし、収支のバランスを取る
- 整合性:すべての書類間で内容に矛盾がないようにする
これらの書類を適切に準備することで、定款変更認可申請がスムーズに進み、予定通りの移転が可能になります。
都道府県等によって要求される書類や様式が異なる場合がありますので、必ず事前に確認することをお勧めします。
移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、計画的に書類の準備を進めましょう。
