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診療所移転の定款変更の議事録の作成方法

議事録イメージ

医療法人が診療所を移転する際には、定款変更が必要となり、そのためには社員総会での決議が不可欠です。

この社員総会の内容を正確に記録した議事録は、定款変更認可申請の重要な添付書類となります。

本記事では、診療所移転に伴う定款変更のための社員総会議事録の作成方法について詳しく解説します。

社員総会議事録の重要性

定款では、「定款の変更は社員総会の議決を経なければならない」と定められています。

このため、診療所移転に伴う定款変更には、社員総会を開催し、その内容を議事録として残す必要があります。
この議事録は定款変更認可申請の際の重要な添付書類となり、都道府県等による審査の対象となります。

議事録が不適切であると、定款変更認可申請が差し戻される可能性もあります。
そのため、正確かつ適切な議事録の作成が重要です。

社員総会開催の準備

社員総会の種類と開催時期

診療所移転のための定款変更は、通常、臨時社員総会で決議します。

定時社員総会(通常は事業年度終了後2か月以内に開催)とは別に、移転が決まったタイミングで臨時社員総会を開催するのが一般的です。

移転計画が具体化した段階で、早めに臨時社員総会を開催することをお勧めします。
定款変更認可申請から実際の移転までには通常3~6か月程度かかりますので、余裕をもったスケジュールで進めましょう。

社員総会の招集

社員総会を開催するには、定款に定められた方法で招集する必要があります。
一般的には、理事長が1週間前までに社員に対して、社員総会の日時・場所・議題を通知します。

招集通知の例

医療法人社団〇〇会 社員各位
令和〇年〇月〇日
医療法人社団〇〇会
理事長 〇〇 〇〇 印

臨時社員総会招集通知

下記の通り、臨時社員総会を開催しますので、ご出席くださいますようお願い申し上げます。



1. 日 時:令和〇年〇月〇日 〇時〇分
2. 場 所:医療法人社団〇〇会 会議室
3. 議 題:
(1) 診療所移転の件
(2) 主たる事務所移転の件
(3) 定款の一部変更の件
(4) 新診療所の管理者選任の件
(5) 銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度の承認の件
(6) 事業計画及び予算の変更設定の件

以上

社員総会の成立要件

社員総会は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の過半数の出席がなければ成立しません。

社員総会を確実に成立させるためには、可能な限り全社員の出席を確保することが望ましいです。

社員総会議事録の基本構成

社員総会議事録は、一般的に以下の構成で作成します。
各都道府県等のホームページに議事録の例が掲載されている場合は、それを参考にすることをお勧めします。

議事録の基本項目

  • タイトル
    「医療法人社団〇〇会 臨時社員総会議事録」
  • 基本情報
    – 日時:令和〇年〇月〇日 〇時〇分~〇時〇分
    – 場所:具体的な会議開催場所
    – 出席社員:社員の氏名を列記(「本社団社員総数〇名のうち、〇名出席」と記載)
    – 出席理事及び監事:理事長、理事、監事の氏名を列記
    – 議事録作成者:議事録を作成する者の氏名
  • 開会宣言
    – 定足数を満たしていることの確認
    – 議長の選出(通常は理事長)
    – 開会の宣言
  • 議案と決議内容
    – 各議案の説明と質疑応答
    – 決議結果(「一同異議なくこれを承認した」など)
  • 閉会宣言
    – 全議事終了の確認
    – 閉会の時刻
  • 押印

診療所移転に関する主な議案

診療所移転に伴う定款変更のための社員総会では、通常、以下の議案について決議します。

診療所移転の件

診療所を移転する理由や移転計画の概要、移転資金計画などを説明し、社員の承認を得ます。
移転理由は具体的に記載します(「手狭になったため」「老朽化したため」「立ち退きを求められたため」など)。

また、移転先の立地条件や利便性、患者への影響などについても説明するとよいでしょう。

移転資金計画は、資金調達方法(内部留保、借入など)と使途(内装工事費、医療機器購入費、保証金、運転資金など)を具体的な金額とともに記載します。

主たる事務所移転の件

医療法人が開設している診療所が1つだけの場合、主たる事務所も通常診療所と同じ場所に置かれます。
そのため、診療所の移転に伴い、主たる事務所も移転することになります。

この議案では、主たる事務所の移転先住所を具体的に示し、社員の承認を得ます。

定款の一部変更の件

診療所と主たる事務所の移転に伴い、定款の第2条(主たる事務所の所在地)と第4条(診療所の名称及び開設場所)を変更する必要があります。

この議案では、別紙の新旧条文対照表を示し、変更内容について社員の承認を得ます。

新診療所の管理者選任の件

移転後の診療所の管理者を選任する議案です。
通常は移転前と同じ管理者が続投しますが、管理者が変わる場合は、新たな管理者の選任が必要です。

管理者は医師または歯科医師である必要があり、選任後は管理者就任承諾書の提出が必要です。

銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度の承認の件

移転資金を借入で調達する場合は、借入金額の最高限度について社員の承認を得る必要があります。

借入先金融機関、借入予定額、返済条件(期間、金利など)について説明します。
内部留保だけで資金調達が可能な場合は、この議案は不要です。

事業計画及び予算の変更設定の件

移転に伴う事業計画と予算の変更について、社員の承認を得ます。

移転の時期、移転後の診療体制、収支見通しなどについて説明し、別紙の事業計画書と予算書を提示します。

社員総会議事録の詳細な作成方法

以下では、診療所移転のための社員総会議事録の詳細な作成方法を解説します。

タイトルと基本情報の記載

医療法人社団〇〇会
臨時社員総会議事録

1.日 時 令和○○年○月○日 ○時○分~○時○分
2.場 所 ○○○において
3.出席社員 ○○○○、○○○○、○○○○
(本社団社員総数○名のうち、○名出席)
4.出席理事及び監事 理事長○○○○、理事○○○○、理事○○○○、監事○○○○
5.議事録作成者 ○○○○

開会宣言の記載

本社団定款第○条の規定により○○○○は選任されて議長となり、定款第○条第○項の規定する定款変更の決議に必要な定足数に達したことを確認したのち、○時○分開会を宣し、議事に入った。

第1号議案:診療所移転の件

第1号議案 診療所移転の件

議長○○○○は、次のように述べた。

「本社団の事業も順調に発展している。そこで、○○○○クリニックが手狭になったこと、また感染防止対策も踏まえ、新しい環境を整えて現在にもましてより良い診療を目指すため、既存の患者の継続的診療が十分可能な〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇に診療所を移転したい。診療所の移転予定地は、移転前と同じく〇〇駅より徒歩〇分と至便であり、患者様にとっても通いやすく、当社団にとっても経営上相当有利なものと見込まれる。」

その資金計画は次のとおりである。

○○銀行の融資 ○○○○万円
本社団の内部留保金 ○○○○万円
合 計 ○○○○万円

内装工事費 ○○○万円
医療機器購入費 ○○○万円
保 証 金 ○○○万円
運 転 資 金 等 ○○○万円
合 計 ○億○○○万円

この他詳細な説明を行い、社員の質疑に対し、回答した。
議長は本議案を一同に諮ったところ、全員異議なく承認した。

移転資金計画では、資金調達方法と使途の合計額が一致するように記載します。
また、社員総会議事録の内容と、別途作成する事業計画書・予算書の内容が整合するようにします。

第2号議案:主たる事務所移転の件

第2号議案 主たる事務所移転の件

議長○○○○は、前号の承認に伴い、当社団の主たる事務所を下記のとおり変更する件につき出席社員の承認を求めたところ、一同異議なくこれを承認した。



移転先住所   〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

移転先住所は、定款変更案と完全に一致する形で記載します。
「東京都○○区△△△一丁目2番3号 ○○ビル4階」のように、正確に記載することが重要です。

第3号議案:定款の一部変更の件

第3号議案 定款の一部変更の件

議長○○○○は発言し、前号議案の承認に伴い、別紙新旧条文対照表のとおり定款第2条及び第4条を変更する必要があるとし、その案を一同に示したところ、全員異議なく承認した。

新旧条文対照表は別紙として添付します。
この対照表には、変更前の第2条・第4条と変更後の第2条・第4条を対比させ、変更箇所に下線を引いたものを記載します。

第4号議案:新診療所の管理者選任の件

第4号議案 新診療所の管理者選任の件

議長○○○○は、新たに開設する診療所の管理者に、引き続き○○○○氏を選任したい旨を述べた。議長はこれを一同に諮ったところ、全員異議なく承認した。

移転前と同じ管理者が続投する場合は、「引き続き」という表現を使います。
管理者が変わる場合は、新たな管理者の略歴等を説明し、その適格性について説明するとよいでしょう。

第5号議案:銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度の承認の件

第5号議案 銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度の承認の件

議長○○○○は、診療所の移転資金について○○銀行○○支店から融資を受けるにあたり、借入金額の最高限度を次のように提案した。

○億○○○万円

議長はこれを一同に諮ったところ、全員異議なく承認した。

内部留保だけで資金調達が可能な場合は、この議案は不要です。

第6号議案:事業計画及び予算の変更設定の件

第6号議案 事業計画及び予算の変更設定の件

議長○○○○は、診療所の移転計画に伴い、令和○年○月に承認を得た、本年度の事業計画及び予算を別紙のように変更したい旨、令和○○年度の事業計画及び予算を別紙のように設定したい旨を述べ、計画案、予算案を一同に配布した。

議長はこれを一同に諮ったところ、全員異議なく承認した。

事業計画書と予算書は別紙として添付します。
事業計画書には移転の概要、移転理由、移転後の診療体制、収支見通しなどを記載します。予算書には移転に伴う収支計画を数値化して記載します。

閉会宣言と押印

以上をもって本日の議事を終了したので、議長は閉会を宣した。(○時○分)

本日の決議を確認するため、出席社員及び出席役員の全員が記名押印する。

社 員(理 事 長)○ ○ ○ ○ 印
〃 (理 事)○ ○ ○ ○ 印
〃 (理 事)○ ○ ○ ○ 印
監 事 ○ ○ ○ ○ 印

社員総会議事録作成時の注意点

所在地表記の統一

所在地の表記は、新旧条文対照表や新定款の案文と完全に一致させることが重要です。

  • 住居表示か地番かを確認し、自治体のルールに従った表記をします。
  • 「丁目」「番」「号」の表記を正確に行います。
  • ビル名・部屋番号まで正確に記載します。
  • 漢数字と算用数字の使い分けは自治体のルールに従います。

移転資金計画の整合性

議事録に記載する移転資金計画は、事業計画書や予算書と整合性を取ることが重要です。

  • 資金調達方法(内部留保、借入など)と使途(工事費、機器代、保証金など)の合計額が一致するようにします。
  • 借入金額は、銀行融資申込に伴う借入金額の最高限度と一致させます。
  • 内部留保金の金額は、財産目録や勘定科目内訳書など、内部留保が確認できる資料と一致させます。

医療法人の組織構成との整合性

議事録に記載する社員や役員の情報は、過去に都道府県等に提出した役員変更届等と整合性を取ることが重要です。

  • 社員総数は現在の社員数と一致させます。
  • 出席社員の氏名は正確に記載します。
  • 理事長、理事、監事の氏名は最新の役員変更届と一致させます。

議決の表現

議決の結果は明確に記載します。
一般的には「全員異議なく承認した」「賛成多数で承認された」などの表現を使います。

反対意見があった場合は、その内容と結果(例:「賛成○名、反対○名で承認された」)を記載します。

議事録作成者と押印

議事録作成者は通常、理事長または理事が担当します。

議事録の提出方法

完成した社員総会議事録は、定款変更認可申請の添付書類として都道府県等に提出します。

提出部数

提出部数は都道府県等によって異なりますが、通常2部(正本1部、副本1部)が必要です。
余裕をもって3~4部作成しておくとよいでしょう。

議事録の写しの証明

議事録の写しを提出する場合は、「原本と相違ない」旨の記載と理事長の押印が必要です。

上記は原本と相違ないことを証明します。
令和○年○月○日
医療法人社団○○会
理事長 ○○ ○○ 印

添付書類

議事録と一緒に提出する添付書類としては、以下のものがあります。

  • 新旧条文対照表
  • 新定款の案文
  • 事業計画書
  • 予算書

これらの書類は議事録で言及されているものですので、必ず添付する必要があります。

まとめ

診療所移転に伴う定款変更の社員総会議事録は、定款変更認可申請の重要な添付書類です。
正確かつ適切な議事録を作成するためには、所在地表記の統一、移転資金計画の整合性、医療法人の組織構成との整合性などに注意が必要です。

特に重要なポイントは以下の通りです。

  • 基本情報の正確な記載
    – 日時、場所、出席者情報を正確に記載する
    – 定足数を満たしていることを明記する
  • 議案の網羅性
    – 診療所移転の件、主たる事務所移転の件、定款の一部変更の件を必ず含める
    – 移転資金調達のために借入が必要な場合は、借入金額の最高限度の承認の件も含める
  • 所在地表記の統一
    – 新旧条文対照表や新定款の案文と完全に一致させる
    – 住居表示のルールに従った正確な表記を行う
  • 移転資金計画の具体性
    – 資金調達方法と使途を具体的な金額とともに記載する
    – 資金調達と使途の合計額が一致するようにする
  • 押印の完全性
    – 出席社員全員と出席役員の押印を確実に行う

これらのポイントを押さえ、丁寧に議事録を作成することで、定款変更認可申請をスムーズに進めることができます。

都道府県等によって要求される形式や内容が異なる場合がありますので、必ず事前に確認することをお勧めします。

移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、計画的に準備を進めましょう。

事務所情報
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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
現在、行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講中。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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