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診療所移転の全体の流れ

段ボールに入った資料を運ぶ女性

医療法人が診療所を移転する場合、定款変更の素案提出から実際の移転まで一般的に6~8ヶ月かかります。
移転手続きを滞りなく進めるためには、少しでも早く着手することが重要です。

本記事では、診療所移転の全体の流れについて詳しく解説します。

移転の基本的な流れ

医療法人の診療所移転は、大きく分けて4つの手続きが必要です。

  1. 定款変更認可申請
  2. 登記申請
  3. 保健所手続き
  4. 厚生局手続き

これらの手続きは順番に進める必要があります。

まず都道府県に定款変更認可申請を行い、認可が下りたら法務局で登記を行います。
その後、保健所で移転手続きをし、最後に厚生局で保険医療機関としての手続きを行うという流れです。

タイムライン例:10月1日移転の場合

具体的なスケジュールを10月1日移転の例で説明します。

  • 4月(移転の約6ヶ月前)
    – 診療所移転が決定
    – 資料の準備開始
    – 移転先の物件確保(2km以内の物件を選定)
    – 賃貸借契約書の締結(または予約契約書の締結)
  • 5月(移転の約5ヶ月前)
    – 定款変更認可申請の書類を整備
    – 都道府県等に素案を提出(仮申請)
    – 都道府県等による審査開始
  • 5月~7月(移転の約5~3ヶ月前)
    – 都道府県等による審査中(修正のやり取りを複数回)
    – 内装工事の打ち合わせや設計
    – 新診療所の備品・機器等の準備
  • 7月(移転の約3ヶ月前)
    – 定款変更の内容がほぼ固まる
    – 保健所にも事前相談
  • 8月(移転の約2ヶ月前)
    – 定款変更認可が下りる
    – 法務局で登記申請
    – 登記完了後、保健所に診療所開設許可申請
    – 内装工事の開始
  • 9月(移転の約1ヶ月前)
    – 保健所による実地検査
    – 診療所開設許可が下りる
    – 移転の最終準備(機器の設置、備品の搬入等)
  • 10月1日
    – 移転日(旧診療所は9月30日で廃止)
  • 10月上旬
    – 保健所で診療所廃止届(9月30日廃止)と診療所開設届(10月1日開設)を提出
    – 厚生局で保険医療機関廃止届(9月30日廃止)と保険医療機関指定申請(10月1日遡及指定)を提出
  • 10月中旬~下旬
    – 施設基準等の届出
    – その他の必要手続き(難病指定医、麻薬施用者免許など)

以上が基本的な流れですが、以下でさらに詳細に解説します。

移転先の選定における重要ポイント

移転先を選定する際に最も注意しなければならないのが、移転先の距離です。
保険医療機関が移転する場合は、移転先を探す段階で【半径2km以内(直線距離)】に絞って探すことが必須です。
これを超えてしまうと、以下のような重大な影響があります。

  • 移転先で最初の1ヶ月間は保険診療ができなくなる
  • 施設基準の実績の引き継ぎができず、実績ゼロからのスタート
  • 初診料の算定や各種加算などの施設基準を新たに取得するための実績作りが必要

このため、2kmを超える移転は避けるべきです。
グーグルマップなどを使って2点間の直線距離を測定しておきましょう。
厚生局への手続きの際にその証明として地図のスクリーンショットなどを添付すると良いでしょう。

定款変更認可申請の流れ

定款変更認可申請は、基本的に以下の流れで進みます。

  1. 素案提出(仮申請)
    移転が決まり次第、早急に定款変更認可申請の素案を作成します。医療法人関連の書類(現行定款、法人謄本、設立時の認可書など)と移転先診療所関連の書類(建物賃貸借契約書、図面など)を用意し、都道府県等に素案を提出します。
    この段階では、通常押印は不要であり、謄本もコピーで問題ありません。申請は随時可能ですが、早く提出すればその分早く認可が下り、余裕をもって保健所や厚生局の手続きが進められます。
  2. 事前審査
    素案提出後、都道府県等による審査が始まります。審査の過程で指摘事項や修正点があれば、担当者からの連絡に応じて修正を行います。このやり取りは複数回行われる場合があります。
  3. 本申請準備
    事前審査が完了し最終版が確定したら、本申請に向けた準備を行います。理事長印や管理者の先生の実印での押印、証明書の原本の準備などが必要になります。
  4. 本申請
    必要な書類に押印し、原本を添付して本申請を行います。
  5. 認可
    本申請から約1~2週間程度で認可が下ります。素案提出から認可まで、平均3ヶ月程度かかります。

登記申請の流れ

定款変更の認可が下り次第、法務局に登記申請を行います。
通常、この手続きは司法書士に依頼します。

定款変更の事前審査が完了する頃に、定款変更の本申請の準備と同時並行で司法書士の手配も進めておくと良いでしょう。

認可書の原本を受領したら、一旦司法書士に預け、登記申請を行います。
登記申請から登記完了までは1~2週間程度かかります。

登記関連で保健所に事前確認すべき点は以下の2点です。

  • 【認可書の原本提示について】
    保健所によっては、認可書の原本提示が必要な場合があります。
    その場合は、司法書士に認可書を渡す前に、保健所で認可書の原本提示を済ませる必要があります。
  • 【医療法人の全部事項証明書(法人謄本)について】
    保健所には、原則として変更登記完了後の法人謄本を提出します。
    ただし、登記完了を待っていると予定通りのスケジュールで移転ができない場合もあるため、登記申請の「受付のお知らせ」等で対応可能かどうか、事前に保健所に確認しておくことが重要です。

保健所手続きの流れ

保健所での手続きは、主に以下の流れで進みます。

  1. 診療所開設許可申請
    定款変更認可が下り、登記申請を行った後、移転先診療所の所在地を管轄する保健所で診療所開設許可申請を行います。
    診療所の基本情報や構造設備に関する書類を提出します。申請手数料として2万円程度が必要です。
  2. 実地検査
    診療所開設許可申請後、通常は実地検査があります。
    診療所の構造設備や医療機器の配置などが申請内容と一致しているかを確認されます。
    管理者の立会いが必須ですので、日程調整をしておきましょう。また、医師免許証や賃貸借契約書などの原本提示も必要になる場合が多いです。
    実地検査の時期は保健所によって異なります。
    ①許可申請後・開設前
    ②書類上の許可後・開設届提出後
    ③全手続き完了後など
    様々なパターンがあります。
    保健所に事前に確認しておくことが重要です。
  3. 診療所開設許可
    実地検査で問題がなければ、診療所開設許可が下ります。
  4. 診療所廃止届と診療所開設届の提出
    実際に移転した後(例:10月1日移転の場合は10月1日以降)、旧診療所の診療所廃止届(9月30日廃止)と新診療所の診療所開設届(10月1日開設)を同時に提出します。

厚生局手続きの流れ

保健所での手続きが完了したら、厚生局での手続きを行います。具体的には以下の流れです。

  1. 保険医療機関廃止届と保険医療機関指定申請
    保健所の手続き書類一式の副本の写し等を添付し、各厚生局事務所にて旧診療所の保険医療機関廃止届(9月30日廃止)と新診療所の保険医療機関指定申請(10月1日開設)を行います。
    厚生局の手続きには毎月の締切日があります(例:東京厚生局は毎月10日)。
    この締切日を逃すと翌月の締切まで待つことになるため、余裕をもって手続きを進めることが重要です。
    移転先が2km以内であれば、遡及希望日(移転日)に遡って保険医療機関の指定を受けることが可能です。
    例えば、10月1日に移転し、10月10日までに指定申請を行えば、10月1日から保険医療機関として遡及指定されます。
  2. 施設基準の届出
    保険医療機関の指定申請と併せて、または指定後に、施設基準の届出を行います。
    移転前と同じ施設基準については、遡及して算定開始となりますが、新たに算定を希望する場合は新規扱いとなり遡及できませんので注意が必要です。

移転日の選定とコード変更

移転日は通常、月の1日付とします。
これは月の途中で医療機関コードが変わると実務上煩雑になるためです。

移転すると保険医療機関コードが変わりますが、月の途中でコードが変わると混乱を招きます。

例えば、10月1日移転の場合:

  • 9月診療分は旧コードで請求
  • 10月診療分は新コードで請求

新しい医療機関コードが判明するのは、通常、指定申請から2~3週間後(例:10月下旬)ですが、10月1日に遡及して保険医療機関として指定されますので、10月診療分はすべて新コードで請求することになります。

その他の必要手続き

移転に伴い、以下のような手続きも必要になります。

  • 難病指定医、労災指定医療機関などの各種指定医療機関の変更手続き
  • 麻薬施用者免許の変更手続き(麻薬を取り扱う医療機関の場合)
  • 生活保護法指定医療機関の手続き(厚生局での保険医療機関指定申請と同時に行うことも可能)
  • 介護保険法のみなし指定に関する手続き
  • オンライン資格確認に関する変更手続き

これらの手続きも漏れなく行うことが重要です。

移転準備の注意点

  • レセプト請求に関する注意
    新しい医療機関コードが判明してからレセプト請求までの日数が限られるため、レセコン(レセプトコンピューター)の設定等については、レセコン会社に早めに相談しておきましょう。
  • 処方箋発行時の注意
    新しい医療機関コードが判明するまでは、処方箋を発行する際に医療機関コードの欄を空欄にし、コメント欄に「新しい医療機関コード申請中のため未記入」などと記載します。移転前の古いコードで処方箋を発行すると、薬局で返戻されることがあります。
  • 支払機関への手続き
    保険医療機関指定申請後、国保連合会と支払基金から手続き書類が届きます。これらの書類は期限が短い場合が多いので、迅速に対応する必要があります。万一期限に間に合わない場合は、最初の月の診療報酬の振込が1か月遅れ、翌月に2か月分がまとめて振り込まれることになります。

まとめ ~成功する診療所移転のポイント

診療所移転を成功させるためのポイントをまとめます。

  1. 早期の準備開始:少なくとも移転の6~8か月前から準備を始める
  2. 2km以内の移転先選定:保険診療を中断なく続けるために必須
  3. 余裕のあるスケジュール:各段階の手続きに十分な時間を確保
  4. 専門家への相談:司法書士、行政書士、レセコン会社など専門家に早めに相談
  5. 原本の保管管理:各種証明書や許可書の原本を適切に管理
  6. 関係機関との事前相談:都道府県、保健所、厚生局との事前相談を欠かさない
  7. 月初(1日付)の移転:月途中の移転は避け、月初に移転する
  8. 患者への周知:十分な期間をもって移転の案内を行う

診療所の移転は複雑な手続きが多いですが、計画的に準備を進めることで、スムーズな移転が可能です。何より重要なのは「早めの準備」です。
各段階での手続きに必要な時間を確保しつつ、遅延が生じた場合の余裕も考慮して計画を立てることをお勧めします。

移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、本記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
現在、行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講中。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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