診療所移転にあたって用意するもの

医療法人が診療所を移転する場合、様々な書類や資料を準備する必要があります。
移転の手続きをスムーズに進めるためには、これらの書類を漏れなく、かつ適切なタイミングで用意することが重要です。
本記事では、診療所移転にあたって準備すべき書類や資料について詳しく解説します。
診療所移転が決まったら、まず用意する書類は大きく2種類あります。
1つ目が医療法人関連の書類、2つ目が移転先診療所関連の書類です。
法人関連の書類は、移転先の場所が確定する前でも準備が可能です。
書類は早めに準備し、移転先関連の書類が揃い次第、直ぐに素案を提出すると良いでしょう。
医療法人関連の書類
現行定款
定款変更認可申請を行いますので、医療法人の現行定款が必要です。
見つからない場合には、後述の「設立時の認可書、(設立後に定款変更をしている場合)定款変更認可書」の中にあります。
新定款を作成するという作業になりますので、現行定款のワードファイルも準備すると良いでしょう。
医療法人を設立した時や定款変更した時の税理士や行政書士が定款のワードファイルを持っているはずです。
現行定款で特に重要なのは、以下の条文です。
- 第2条:主たる事務所の所在地
- 第4条:診療所の名称および開設場所
これらの条文が移転に伴い変更される条文となります。
医療法人の謄本(履歴事項全部証明書)
最寄りの法務局またはオンラインで取得が可能です。
最新のものを準備してください。謄本は、通常、発行後6ヶ月以内のものが求められます。
謄本の取得方法は2つあります。
- 最寄りの法務局の窓口で取得する(手数料:600円/通)
- 登記・供託オンライン申請システムを利用して取得する
謄本には以下の情報が記載されています。
- 医療法人の名称
- 主たる事務所の所在地
- 目的
- 資産の総額
- 役員に関する事項(理事長、理事、監事)
設立時の認可書、定款変更認可書の控一式
例えば、東京都所管の医療法人であれば東京都に定款変更認可申請を行います。
その際に、過去に提出済の内容と今回の申請内容に整合性が取れている必要があります。
過去に提出した書類を準備しておきましょう。
これらの書類が手元にない場合は、所管の都道府県庁の医療法人担当部署に問い合わせると、控えが保管されている場合があります。
役員変更届、事業報告(決算届)の控
同様に、都道府県等に提出した役員変更届や毎年の事業報告等も準備しましょう。
過去に届出した内容と今回の申請内容に整合性が取れている必要があります。
特に役員変更届は、現在の理事長や理事、監事の就任状況を確認するために重要です。
定款変更認可申請書の理事長名や押印が、最新の役員変更届と一致していることを確認してください。
医療法人の直近の法人税の確定申告書、月次残高試算表
予算書作成の際に必要となります。直近の月次残高試算表の提出を求める都道府県もあります。
確定申告書一式(別表一から十六まで)と、添付書類(決算報告書、勘定科目内訳書など)を準備してください。
これらは、移転資金の調達方法を裏付ける資料として重要です。
移転先診療所 建物関連の書類
診療所の図面
各部屋の面積(診察室の面積など)が記載されている図面が必要になります。
工事着工前に、業者に保健所に出向いてもらい、構造設備に問題ないかを必ず確認しましょう。
設計・内装工事は、医療機関の実績の多い業者に依頼することをお勧めします。
医療機関特有の規制などがありますので、経験のない業者では手続きが難航する場合があります。
診療所の図面では、以下の点に注意してください。
- 診察室の面積は9.9㎡以上必要です
- 待合室の面積は3.3㎡以上必要です
- 各室の用途と面積を明記してください
- エックス線装置を設置する場合は、専用の防護設備の詳細も記載してください
- 手洗い設備や消毒設備の位置も明記してください
図面は通常、A3サイズで作成し、縮尺は100分の1以上のものが求められます。
移転先診療所の建物賃貸借契約書の写し
移転先診療所の建物の賃貸借契約書のすべてのページの写しが必要になります。
以下の場合は特に注意が必要です。
- 建物所有者と賃貸人が異なる場合
建物所有者と賃貸人の繋がりがわかる原契約と、建物所有者からの転貸承諾書が追加で必要になります。早めに手配しましょう。 - 建物賃貸借契約の本契約が未締結の場合
素案提出時は、取り急ぎドラフト版でも構いませんが、借主・貸主・所在地・賃料等の基本情報は必要です。 - 新築の場合
「予約契約書」でも素案提出時は問題ありませんが、本申請時までに本契約を締結する必要があります。
土地の全部事項証明書、建物の全部事項証明書など
土地の地番や建物の家屋番号を調べ、登記情報(オンラインの情報)や謄本(正式な原本)を取得します。
素案提出時は登記情報でも構いませんが、本申請時には謄本(正式な原本)が必要です。
登記情報は登記情報提供サービス(https://www1.touki.or.jp/)で確認できます。
謄本は登記・供託オンライン申請システム(https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/)でオンライン取得するか、最寄りの法務局で取得できます。
移転先診療所 管理者関連の書類
印鑑証明書の原本1通
都道府県等によっては、不要の場合もあります。
一方、2通(定款変更用と役員変更届用)必要な場合もありますので、事前に確認して下さい。
印鑑証明書は、発行後3か月以内のものが求められるのが一般的です。
市区町村の窓口やコンビニのマイナンバーカード対応機で取得できます。
履歴書
管理者の履歴書を準備します。
通常、学歴は大学入学以降を記載し、職歴は漏れなく記載します。
移転後の就任予定も記載してください。
履歴書に記載する主な内容
- 氏名、現住所、生年月日
- 学歴(高校または大学以降)
- 医師国家試験合格と医籍登録
- 職歴(臨床研修、勤務先、開業など)
- 所属医師会
- 賞罰
履歴書の様式は、各都道府県等によって異なる場合がありますので、所定の様式がある場合はそれを使用してください。
特に賞罰欄の記載方法は要確認です。
医師免許証や歯科医師免許証の写し
保健所手続きの際には、通常、原本提示も必要です。
B4サイズで横向きの医師免許証や歯科医師免許証をA4サイズにコピーしたものを準備します。
コピーは鮮明で、免許番号や登録年月日が読み取れるようにしてください。
臨床研修修了登録証の写し
医師は平成16年4月以降登録の場合、歯科医師は、平成18年4月以降登録の場合のみ、臨床研修修了登録証の写しが必要です。
保健所手続きの際に必要ですので、まとめて依頼しましょう。
通常、原本提示も必要です。
臨床研修修了登録証は、病院が発行する修了証ではなく、厚生労働省が発行した公式の登録証です。A4サイズの縦長の書類です。
紛失した場合は再発行が可能ですが、手続きに時間がかかることがありますので、早めに確認しておきましょう。
保険医登録票の写し
厚生局手続きの際必要となりますので、まとめて依頼しましょう。
保険医登録票は、医科の場合は「○医第○○○○○号」、歯科の場合は「○歯第○○○○○号」という登録番号があります。
保険医登録票を紛失した場合は、各厚生局に再発行を依頼することができます。
まとめ
これらの書類を適切に準備することで、診療所移転の手続きをスムーズに進めることができます。
準備には時間がかかりますので、早めに着手し、計画的に進めていくことをお勧めします。
移転という大きな節目を無事に乗り切り、新しい環境での診療がスムーズに始められるよう、本記事を参考に準備を進めていただければ幸いです。
