診療所移転の保健所手続きのポイント3つ

~流れ、原本確認、押印の要否~
診療所移転の際の保健所手続きは、移転を成功させるために非常に重要なプロセスです。
全体の流れを確実に把握し、原本確認や押印の要否について正しく理解することで、スムーズな移転が可能になります。
本稿では、特に重要な3つのポイントを詳細に解説します。
保健所手続きの流れについて
医療法人が診療所の移転をする場合、保健所の手続きは定款変更認可や登記が終わった後の重要なステップとなります。
全体の流れとタイミングを正確に把握することが成功の鍵です。
移転の全体的な流れと保健所手続きの位置づけ
まず全体の流れを確認しましょう。
例として、10月1日に移転する場合のスケジュールを見ていきます。
- 定款変更認可申請
- 認可取得
- 登記申請
- 診療所開設許可申請(保健所)
- 実地検査
- 診療所開設許可
- 移転(10月1日)
- 診療所廃止届・開設届(保健所)
- 保険医療機関指定申請(厚生局)
保健所での手続きは、上記4の診療所開設許可申請から始まります。
通常、移転日の約2週間前までに申請する必要があるため、10月1日移転の場合は9月中旬までに申請します。
診療所開設許可申請
定款変更認可がおり、登記申請を行った後、速やかに保健所の窓口で診療所開設許可申請を行います。
ここでのポイントは以下の通りです。
- 窓口への訪問は予約が必要な場合が多いので、事前確認が必要です
- 開設許可申請手数料(通常20,000円前後)を現金で準備しておきましょう
- 申請書類は一式少なくとも4セット用意します(保健所提出用、法人控え用、業者提出用予備、厚生局提出用)
申請書類には、診療所の構造設備に関する情報(建物や各室の面積、レントゲン設備など)を記入します。
実地検査
診療所開設許可申請後、通常は実地検査があります。
実地検査の時期は保健所によって異なりますが、一般的には以下の3パターンがあります。
- 一般的なフロー(移転前):9月中旬に診療所開設許可申請、9月20日頃に実地検査、許可後に10月1日移転
- タイトなフロー(移転直後):診療所開設許可申請、書類上の許可が下り、10月1日移転、10月1日すぎに保健所に廃止届と開設届を提出した後に実地検査(例:10月3日)
- 事後フロー(すべての手続き完了後):すべての手続きが完了した後(例:10月25日頃)に実地検査
実地検査では、申請書類に添付した図面と実際の構造設備が完全に一致していることが求められます。
図面と現地に食い違いがある場合、簡単な修正であればその場で対応できますが、大きな差異がある場合は図面の差し替えや最悪の場合は工事のやり直しが必要になることもあります。
そのため、工事着工前に保健所に図面の事前確認をすることが非常に重要です。
診療所廃止届・開設届
実地検査が無事に終わり、診療所開設許可がおりると、10月1日に実際に移転します。その後、10月1日すぎになるべく早く、旧診療所の診療所廃止届と新診療所の診療所開設届を同時に提出します。
この際の重要なポイントは以下の通りです。
- 廃止届と開設届は必ず同時に提出する
- 10月1日移転の場合、廃止日は9月30日、開設日は10月1日と記載する
- 月の途中での移転は避け、月初(1日付)で移転する(医療機関コードが変わるため、実務上煩雑になります)
原本確認について
保健所の手続きでは、多くの書類の写しを提出しますが、その際に原本との相違がないことを確認するため、原本提示が求められるケースが多くあります。
この「原本確認」の対応を誤ると、クリニックの移転に間に合わないという事態にもなりかねません。
原本確認が必要な主な書類
以下の書類については、原本確認が必要なケースが多いため、事前に準備しておきましょう。
- (歯科)医師免許証・臨床研修修了登録証: ・臨床研修修了登録証は、医師の場合は平成16年4月以降、歯科医師の場合は平成18年4月以降に登録した先生が対象です。臨床研修修了登録証は手配に時間がかかる場合があるため、早めに準備してください。
- 賃貸借契約書関連: 賃貸借契約書の写しを提出するだけでなく、原本提示が必要なケースが多くあります。特に注意が必要なのは、建物所有者と賃貸人が異なる場合です。この場合、転貸承諾書の原本の提示も必要になります。
- 定款変更認可書: 定款変更認可書の原本提示が必要な保健所もあります。日程に余裕がある場合は登記完了後に提示できますが、タイトな場合は認可が下り次第、保健所に認可書を提示してから司法書士に渡すことになります。
原本確認のタイミング
原本確認のタイミングについては、以下の2通りがあります。
- 実地検査の際:多くの保健所では、実地検査の際に原本を準備しておいて確認してもらうことが可能です。
- 事前確認:実地検査の際では不可の場合、診療所開設許可申請時などに原本を持参して確認してもらう必要があります。
いずれにしても、どの書類をいつ原本提示すればよいかを事前に保健所に確認することが重要です。
これにより、手続きがスムーズに進み、予定通りの移転が可能になります。
押印の要否
近年の行政手続きの電子化や簡素化により、押印不要となる書類も増えていますが、保健所の手続きでは依然として押印が必要な場合があります。
押印が必要な主な書類
保健所の手続きで押印が必要となる可能性がある主な書類には以下があります。
- 診療所開設許可申請書: 医療法人の理事長印が必要になる場合があります。
- 管理者就任承諾書: 管理者の押印が必要になることがあります。
- 診療所廃止届・開設届: 医療法人の理事長印が必要になる場合があります。
押印の有無の確認方法
押印の要否については、保健所によって対応が異なります。
以下の方法で確認しましょう。
- 保健所のウェブサイト: 多くの保健所では、ホームページに申請書様式と記載例を掲載しています。押印欄の有無や記載例の内容から、押印が必要かどうかを確認できます。
- 電話での問い合わせ: ウェブサイトに情報がない場合や、確実に確認したい場合は、直接保健所に電話で問い合わせることをお勧めします。
- 過去の申請書の確認: 過去に同様の手続きを行ったことがある場合は、その際の申請書を参考にすることも有効です。
押印に関する注意点
押印が必要な場合は、以下の点に注意しましょう。
- 印鑑の種類
- 捨て印: 押印書類を準備する際は、必要部数の倍の部数を用意しておくと、差し替えが必要になった際に便利です。また、捨て印(余白に押した印影)をもらっておくと、軽微な修正の際に役立ちます。
実務上の重要ポイント
これまでの3つのポイントに加えて、保健所手続きを成功させるための実務上の重要なポイントをいくつか紹介します。
事前相談の重要性
保健所によって手続きの詳細や必要書類が異なることがあります。
特に以下の点については、早めに保健所に確認しておくことをお勧めします。
- 診療所開設許可申請のスケジュール(標準処理期間など)
- 実地検査の時期と内容
- 原本確認が必要な書類と確認のタイミング
- 押印が必要な書類と印鑑の種類
- 移転先診療所の構造設備に関する要件
書類の作成と管理
保健所手続きでは多くの書類を作成・提出する必要があります。
効率的な書類作成と管理のために以下の点に注意しましょう。
- 書類は最低4セット作成する(保健所提出用、法人控え用、業者提出用予備、厚生局提出用)
- 定款や医療法人の登記事項証明書などの基本書類は、コピー&ペーストで正確に転記する
- 提出した書類の控えは必ず保管し、収受印をもらっておく
- 電子データも整理して保存し、修正が必要な場合に備える
実地検査の準備
実地検査では以下の点が確認されることが多いため、事前に準備しておきましょう。
- 管理者の立ち会い(必須)
- 原本提示が必要な書類(医師免許証、賃貸借契約書など)
- 院内掲示(管理者氏名、診療日時、診療に従事する医師名など)
- 各部屋の用途表示(図面の表記と完全に一致していること)
- エックス線装置のある場合は、関連書類や表示
- 医療安全管理の指針・手順書
- 感染性廃棄物の処理契約書
- 消火設備(最低限消火器が必要)
- 医薬品の保管場所(患者の手の届かない場所に保管)
- 手指洗浄設備(すべての水回りに手指用洗浄剤または消毒剤が必要)
- カルテの保存方法(電子カルテの場合はパスワード管理、紙カルテの場合は施錠可能なカルテ庫)
まとめ
診療所移転の保健所手続きでは、「流れ」「原本確認」「押印の要否」の3つのポイントを押さえることが重要です。
全体の流れを把握し、いつ何をすべきかを明確にしておくこと、原本確認が必要な書類を事前に準備しておくこと、押印が必要な書類と印鑑の種類を確認しておくことで、スムーズな移転が可能になります。
また、事前相談の重要性、書類の作成と管理、実地検査の準備なども忘れてはならないポイントです。
保健所によって手続きの詳細が異なることもあるため、早めに確認して準備を進めることが成功の鍵となります。
診療所移転は6~8ヶ月という長期にわたるプロジェクトです。
特に保険医療機関が移転する場合は、移転先を半径2km以内に限定する必要があることも忘れてはなりません。
これを超えると移転先での最初の1ヶ月間は保険診療ができなくなり、施設基準の実績の引き継ぎもできなくなります。
しっかりと準備を整え、保健所との連携を密にすることで、円滑な診療所移転を実現しましょう。
