医療法人の決算届の作成方法
医療法人の運営において、決算届(事業報告)の提出は毎年行わなければならない重要な業務です。
本記事では、医療法人の決算届の作成方法について、具体的な例を挙げながら詳しく解説します。
決算届(事業報告)の概要
決算届は、医療法第51条および第52条に基づき、毎会計年度終了後3ヶ月以内に都道府県等に提出する必要があります。
提出書類
- 事業報告等届出書
- 事業報告書
- 財産目録
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 関係事業者との取引の状況に関する報告書(該当する場合)
- 監事の監査報告書
【注意点】
・提出書類や様式は都道府県等によって異なる場合があります。
・事前に管轄の都道府県等のウェブサイトで最新の情報を確認しましょう。
各書類の作成方法
以下、東京都の例に沿って各書類の作成方法を解説します。
事業報告等届出書
- 右上に、東京都の医療法人に付与されている医療法人(整理)番号を記載します。
- 届出者の欄には、医療法人の情報を記載します。
- 事業年度の始期と終期を記載します。
例
医療法人(整理)番号:第○○○○号
届出者
住所:東京都○○区○○町1-2-3
名称:医療法人社団○○会
代表者氏名:理事長 ○○ ○○
令和○年4月1日から令和○年3月31日までの決算を終了したので、
医療法第52条第1項の規定により、別添のとおり提出します。
…
事業報告書
事業報告書には以下の項目を記載します。
- 医療法人の概要
- 事業の概要
- 当該会計年度内に社員総会で議決又は同意した事項
記載例
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1. 医療法人の概要
(1) 名称:医療法人社団○○会
① □財団 ■社団(□出資持分なし ■出資持分あり)
② □社会医療法人 □特定医療法人 □出資額限度法人 ■その他
③ □基金制度採用 ■基金制度不採用
(2) 事務所の所在地:東京都○○区○○町1-2-3
(3) 設立認可年月日:平成○年○月○日
(4) 設立登記年月日:平成○年○月○日
2. 事業の概要
(1) 本来業務
種類:診療所
施設の名称:○○クリニック
施設の医療機関コード:○○○○○○○○
開設場所:東京都○○区○○町4-5-6
許可病床数:なし
3. 当該会計年度内に社員総会で議決又は同意した事項
令和○○年○○月○○日 令和○○年度決算の決定
令和○○年○○月○○日 定款の変更
令和○○年○○月○○日 社員の入社及び除名
令和○○年○○月○○日 理事、監事の選任、辞任の承認
令和○○年○○月○○日 令和○○年度の事業計画及び収支予算の決定
〃 令和○○年度の借入金額の最高限度額の決定
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財産目録
財産目録は、決算報告書の貸借対照表をもとに作成します。貸借対照表の数字と整合性がとれている必要があります。
記載例
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財産目録
令和○年3月31日現在
資産の部
1. 流動資産
現金預金 ○○○,○○○,○○○円
医業未収金 ○○,○○○,○○○円
…
2. 固定資産
建物 ○○○,○○○,○○○円
医療用機器 ○○,○○○,○○○円
…
資産合計 ○○○,○○○,○○○円
負債の部
1. 流動負債
買掛金 ○○,○○○,○○○円
短期借入金 ○○,○○○,○○○円
…
2. 固定負債
長期借入金 ○○○,○○○,○○○円
…
負債合計 ○○○,○○○,○○○円
正味財産 ○○○,○○○,○○○円
…
貸借対照表
貸借対照表は、決算報告書の貸借対照表をもとに作成します。医療法人の類型に合った様式で作成しましょう。
記載例
…
貸借対照表
令和○年3月31日現在
資産の部
1. 流動資産
現金預金 ○○○,○○○,○○○円
医業未収金 ○○,○○○,○○○円
…
流動資産合計 ○○○,○○○,○○○円
2. 固定資産
有形固定資産
建物 ○○○,○○○,○○○円
医療用機器 ○○,○○○,○○○円
…
無形固定資産 ○,○○○,○○○円
その他の資産 ○○,○○○,○○○円
固定資産合計 ○○○,○○○,○○○円
資産合計 ○○○,○○○,○○○円
負債の部
1. 流動負債
買掛金 ○○,○○○,○○○円
短期借入金 ○○,○○○,○○○円
…
流動負債合計 ○○○,○○○,○○○円
2. 固定負債
長期借入金 ○○○,○○○,○○○円
…
固定負債合計 ○○○,○○○,○○○円
負債合計 ○○○,○○○,○○○円
純資産の部
1. 出資金 ○○,○○○,○○○円
2. 利益剰余金 ○○○,○○○,○○○円
純資産合計 ○○○,○○○,○○○円
負債及び純資産合計 ○○○,○○○,○○○円
…
損益計算書
損益計算書は、決算報告書の損益計算書をもとに作成します。
記載例
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損益計算書
自 令和○年4月1日 至 令和○年3月31日
1. 事業収益
医業収益 ○○○,○○○,○○○円
…
事業収益計 ○○○,○○○,○○○円
2. 事業費用
医業費用
給与費 ○○○,○○○,○○○円
材料費 ○○,○○○,○○○円
…
一般管理費 ○○,○○○,○○○円
…
事業費用計 ○○○,○○○,○○○円
3. 事業利益 ○○,○○○,○○○円
4. 事業外収益 ○,○○○,○○○円
5. 事業外費用 ○,○○○,○○○円
6. 経常利益 ○○,○○○,○○○円
7. 特別利益 ○,○○○,○○○円
8. 特別損失 ○,○○○,○○○円
9. 税引前当期純利益 ○○,○○○,○○○円
10.法人税等 ○,○○○,○○○円
11.当期純利益 ○○,○○○,○○○円
…
関係事業者との取引の状況に関する報告書
当該会計年度において、関係事業者と一定の取引がある場合には、報告する必要があります。
どのような場合に報告する必要があるかについては、各都道府県のホームページ等で確認しましょう。
記載例
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関係事業者との取引の状況に関する報告書
1. 関係事業者の概要
名称:株式会社○○
住所:東京都○○区○○町7-8-9
代表者:代表取締役 ○○ ○○
資本金:10,000,000円
事業内容:医療機器販売
2. 当該事業年度における取引の状況
取引の内容:医療機器の購入
取引金額:15,000,000円
取引条件:市場価格を参考に決定
3. 取引の必要性及び適切性についての説明
当社は最新の医療機器を導入することで、より質の高い医療サービスを提供することを目指しています。関係事業者である株式会社○○は、医療機器の販売において豊富な実績があり、アフターサービスも充実しているため、取引先として選定しました。取引価格は市場価格を参考に決定しており、適切であると判断しています。
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監事の監査報告書
監事の監査報告書は、以下の項目を含めて作成します。
- 監査の方法及びその内容
- 事業報告等の監査結果
- 計算書類及びその附属明細書の監査結果
- 監査のために必要な調査ができなかった場合はその旨
- 追記情報
- 監査報告書作成日
- 医療法人の名称
- 監事の氏名
記載例
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監査報告書
私は、医療法人社団○○会の令和○年4月1日から令和○年3月31日までの第○期事業年度の理事の職務の執行を監査いたしました。その方法及び結果につき以下のとおり報告いたします。
1. 監査の方法及びその内容
私は、理事会その他重要な会議に出席し、取締役等からその職務の執行状況について報告を受け、必要に応じて説明を求め、重要な決裁書類等を閲覧し、業務及び財産の状況を調査いたしました。
2. 監査の結果
(1) 事業報告等の監査結果
事業報告は、法令及び定款に従い、法人の状況を正しく示しているものと認めます。
(2) 計算書類及びその附属明細書の監査結果
計算書類及びその附属明細書は、法人の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認めます。
3. 追記情報
該当事項はありません。
令和○年○月○日
医療法人社団○○会
監事 ○○ ○○
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決算届作成時の注意点
- 正確性の確保
- 会計事務所と連携し、数字の正確性を確保しましょう。
- 複数人でチェックし、記入ミスや計算ミスを防ぎましょう。
- 一貫性の確保
- 各書類間で数字の整合性がとれているか確認しましょう。
- 前年度の報告内容と比較し、大きな変動がある場合はその理由を説明できるようにしておきましょう。
- 期限の遵守
- 事業年度終了後3ヶ月以内に提出する必要があります。
- 余裕を持ってスケジュールを立てましょう。
- 最新の様式の使用
- 都道府県等のウェブサイトで最新の様式を確認しましょう。
- 様式が変更されている可能性があるため、毎年確認が必要です。
- 記載漏れの防止
- チェックリストを作成し、必要事項がすべて記載されているか確認しましょう。
- 適切な承認手続き
- 理事会や社員総会での承認を得ているか確認しましょう。
- 承認を得た日付を正確に記載しましょう。
- 関係事業者との取引の確認
- 関係事業者との取引がある場合、報告が必要か確認しましょう。
- 取引の必要性や適切性について、明確に説明できるようにしておきましょう。
- 監事の監査報告書の確認
- 監事が適切に監査を行ったか確認しましょう。
- 監査報告書の日付が決算日以降であることを確認しましょう。
まとめ
医療法人の決算届の作成は、法人の財務状況を正確に報告し、透明性を確保するための重要な業務です。
本記事で紹介した作成方法や注意点を参考に、適切な決算届を作成してください。
特に重要なのは、正確性の確保、一貫性の確保、期限の遵守です。
これらを意識して業務を進めることで、法令遵守はもちろん、医療法人の健全な運営にもつながります。
また、決算届の作成は単なる事務作業ではなく、医療法人の経営状況を客観的に把握し、今後の運営方針を検討する重要な機会でもあります。
この機会を活用し、より良い医療サービスの提供につなげていただきたいと思います。
不明な点がある場合は、所管の行政機関や専門家(行政書士、税理士、公認会計士など)に相談することをためらわず、適切な決算届の作成を目指してください。