医療法人の旧法と新法の定款
医療法人制度は平成19年4月の医療法改正により大きく変更されました。
この改正により、医療法人の定款にも重要な変更が加えられました。
本記事では、旧法と新法の医療法人の定款の違いを解説し、それぞれの特徴や注意点を詳しく説明します。
医療法人の類型
まず、現在の医療法人の類型を理解することが重要です。現在、医療法人は主に以下の2つに分類されます
- 経過措置医療法人のうち、一般の持分あり医療法人(以下、「旧法医療法人」)
- 新法の医療法人社団で基金制度採用の医療法人(以下、「新法医療法人」)
平成19年4月以降に設立された医療法人のほとんどは新法医療法人です。
定款の確認方法
自身の医療法人がどちらの類型に該当するかは、定款を確認することで判断できます。
旧法医療法人の定款の特徴(例):
– 第15条と第43条に出資持分に関する記載がある
新法医療法人の定款の特徴(例):
– 第3章に基金に関する記載がある
旧法医療法人の定款(例)
旧法医療法人の定款には、以下のような特徴的な条項があります。
第15条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。
第43条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。
これらの条項の意味と重要性
- 出資持分の存在
– 旧法医療法人では、社員(出資者)が出資額に応じた持分を有しています。
– この持分は財産的価値を持ち、譲渡や相続の対象となります。 - 払戻請求権
– 社員が資格を喪失した場合(退社や死亡など)、その出資額に応じて払戻しを請求できます。
– これにより、医療法人の財政的基盤が危うくなるリスクがあります。 - 残余財産の分配
– 医療法人が解散した場合、残余財産を出資額に応じて分配します。
– これにより、医療法人の資産が私的に分配される可能性があります。
新法医療法人の定款(例)
新法医療法人の定款には、以下のような特徴的な章があります。
第3章 基金
第5条 本社団は、その財政的基盤の維持を図るため、基金を引き受ける者の募集をすることができる。
第6条 本社団は、基金の拠出者に対して、本社団と基金の拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務を負う。
第7条 基金の返還は、定時社員総会の決議によって行わなければならない。
…第9条 基金の返還をする場合には、返還をする基金に相当する金額を代替基金として計上しなければならない。
2 前項の代替基金は、取り崩すことができない。
これらの条項の意味と重要性
- 基金制度の採用
– 新法医療法人では、出資持分の代わりに基金制度を採用しています。
– 基金は医療法人の財政的基盤を維持するための仕組みです。 - 基金の返還
– 基金は将来的に返還されることを前提としています。
– ただし、返還は社員総会の決議が必要であり、医療法人の財務状況を考慮して行われます。 - 代替基金の計上
– 基金を返還する際には、同額の代替基金を計上する必要があります。
– この代替基金は取り崩すことができず、医療法人の財産的基礎となります。 - 残余財産の帰属
– 新法医療法人では、解散時の残余財産は国、地方公共団体、または他の医療法人など、公益的な主体に帰属します。
– 個人への分配は禁止されています。
旧法と新法の定款の主な違い
- 出資持分と基金
旧法:出資持分が存在し、財産的価値を持つ
新法:出資持分はなく、代わりに基金制度を採用 - 社員の権利
旧法:社員は出資額に応じた払戻請求権を持つ
新法:社員は払戻請求権を持たない - 残余財産の帰属
旧法:解散時の残余財産は出資額に応じて分配
新法:解散時の残余財産は公益的な主体に帰属 - 剰余金の分配
旧法:実質的な配当が可能な場合がある
新法:剰余金の分配はできない - 譲渡性
旧法:持分の譲渡が可能(ただし、社員総会の承認が必要)
新法:基金の譲渡は原則として認められない
新法への移行に関する注意点
旧法医療法人が新法医療法人へ移行する場合、以下の点に注意が必要です。
- 出資持分の放棄
– 社員は出資持分を放棄する必要があります。
– これにより、払戻請求権や残余財産分配請求権を失います。 - 定款の全面改定
– 出資持分に関する条項を削除し、基金に関する条項を追加する必要があります。
– その他の条項も新法に合わせて改定が必要な場合があります。 - 税務上の影響
– 出資持分の放棄により、みなし贈与の課税問題が生じる可能性があります。
– 税務署との事前相談や税理士への相談が推奨されます。 - 社員の同意
– 全社員の同意が必要です。一人でも反対があると移行できません。 - 認可手続き
– 都道府県知事の認可が必要です。
– 認可申請には様々な書類の提出が求められます。
定款変更の手続き
定款を変更する場合、以下の手続きが必要です。
- 理事会での承認
– 定款変更案を理事会で審議し、承認を得ます。 - 社員総会での議決
– 社員総会で定款変更の議決を行います。
– 通常、総社員の3分の2以上の賛成が必要です。 - 都道府県知事の認可
– 社員総会で可決された定款変更案について、都道府県知事の認可を受けます。 - 登記
– 認可を受けた後、変更内容によっては登記が必要です。
– 登記が必要な場合、認可を受けた日から2週間以内に行う必要があります。
まとめ
医療法人の旧法と新法の定款には重要な違いがあります。特に、出資持分の有無と基金制度の採用が大きな違いとなっています。
旧法医療法人は、出資者の権利保護と医療法人の公益性のバランスに課題があり、新法はこれを改善するために導入されました。
新法医療法人は、非営利性と公益性をより強く担保する仕組みとなっています。
一方で、旧法医療法人から新法医療法人への移行には様々な課題があり、慎重な検討と適切な手続きが必要です。
医療法人の運営に携わる方々は、自法人の定款をよく理解し、必要に応じて適切な変更や移行を検討することが重要です。
また、定款変更や新法への移行を検討する際は、弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
適切な定款の管理と必要に応じた見直しは、医療法人の健全な運営と、地域医療への持続的な貢献につながります。
医療法人制度の趣旨を理解し、適切な法人運営を心がけていただきたいと思います。